KAC20201 四年に一度

yanoman

第1話

「え〜!何で、どうして?僕の方は準備万全、いつでもOKなのに」


僕は、慌てた。せっかく、やっと、その、身体の方が気持ちに追いついて、というか、24歳の男としては当然の成り行きで、

僕のものは、いきり立っている。


「ごめん、純也、本当にごめんなさい。私だって期待してたのに。

もぅ!ったく。予定より3日も早く生理になるなんて」


僕の奥さんは、すまなさそうに下をむいて謝っている。


「仕方ないよ。こうして、手をつないでいるだけでも、いいよ」

僕は玲奈の手をとり、優しくキスをした。


 僕と奥さんの玲奈は高校の同級生。しかも誕生日が同じ、2月29日。閏年。高校2年の時に同じクラスになり、一目惚れして僕から告白して付き合いだした。僕達はとても仲がよかった。趣味もあったし、好きな音楽も同じ、大学も同じ学校にした。

 僕たちは、20歳の誕生日までは、清く正しいおつきあいしかしてこなかった。というか、できなかった。

僕の身体がちょっと変わっているからだ。

 僕の勃起は、四年に一度しかない。初めは12歳のときだった。あらっ?何か、おかしいぞ。と思っていたら終わった。

 これが精通というものか。周りのみんなはどうしたこうしたと何回もあるようなことを話しているのに、僕はその一回だけで終わったのだ。


 次は、16歳の時だった。高校生になっていた僕は、クラスメイトの男子の話に調子を合わせていたが、どうも身体が反応しない。でも、女の子は好きだし、いいな、可愛いなぁと思うし、付き合って見たいとも思う。それで、玲奈とも付き合いだしたのだ。それなのに、気持ちはあっても、身体が追いついてこない。

 それでも僕たちは、楽しくデートを重ねていた。もちろん、清く正しいお付き合いだけの。


 そして20歳の誕生日がきた。

 僕にとっては、20歳のお祝いというより、人生3回目の大イベント、ちゃんと立つか、の方が、重要だ。

 

 玲奈も綺麗に振袖を着ている。とても大人っぽくて綺麗だ。誕生日のプレゼントを交換して、気取ったレストランで美味しい食事をして、盛り上がった。振袖は脱がせるのも大変だった。玲奈の身体は綺麗だった。肌の色は白くて透き通っているようだ。形の良い胸はとんがるように三角形を描いていて、でも触れるととても柔らかくて吸い込まれてしまう。僕は、玲奈の胸に何度も口づけをした。

僕も玲奈も初めてだったから、慣れなくてゴムをする暇なんてなくて、僕は玲奈の中で果ててしまった。こんなにいいものが世の中にあるんだ。僕は、なんとも言えない幸福感に包まれていた。それで、子どもができた。本当に1回でも、子どもはできるんだ。

 親はびっくりしたけれど、結婚に賛成してくれて、学生結婚した。子育ては玲奈の母親が全面協力体制をとってくれたのでラッキーだった。


 あれから4年経った24歳の誕生日。僕の人生4回目の大切な日。僕も玲奈も期待していた通り、僕の身体は反応してくれた。でも、玲奈、レイナ〜!何という悲劇だ〜できないなんて〜

 ということはですよ。僕はあと、4年経たなければできない、ということですよ。そんな〜〜〜

僕は、本当は、とても残念だけれど、玲奈には悟られないように、平気なそぶりをしていた。

「玲奈、改めてきちんと言うね。僕は、玲奈と結婚できて、本当に幸せだよ。」

 僕は、今日はきちんと僕の身体のことについて、玲奈に言わなければいけないと思った。


「玲奈もおそらく気づいていると思うけど、僕の身体は普通じゃないみたいだ。」

「私たち、そもそも誕生日が閏年で、四年に一度しかないと言うのも変だよね。」


玲奈は、前髪を少し長めにしてるので、自慢の黒目がちの瞳に時折影がさす。それがまた神秘的な雰囲気で、僕は大好きだ。


「問題は、僕の方だ。僕は、四年に一度しか、立たない。」

「私は、別に気にしないよ。むしろ、めんどくさくなくてサバサバしていいじゃん」

「ヘ〜、そういうものなんだ」

僕は内心良かったと思う反面、玲奈が僕を気遣ってくれているのかと思うとちょっと悲しくなった。


「女はね、直接的な行為より、言葉で好きだと言ってもらったり、優しくしてくれたりすることが、とても大事なんだよね」


 そうなのか。それならできる。いくらだって、できる。僕は玲奈を心から大切に思っているし、優しくする。欲を言えば、もうちょっと痩せてくれたら嬉しいけど、そんなことはどうでも良い。玲奈。愛しているよ。

 24歳の、四年に一度の僕達の誕生日は、幸せに過ぎていった。僕にとっては、悲劇ではあったけれど。



「キタ〜〜〜、玲奈。期待してくれ。やっぱり、きっかり4年後だった。」

僕達は28歳の誕生日祝いの夜を、二人だけで過ごせるように、息子を実家に預けて、ホテルを取っていた。

 夜景の見えるおしゃれな部屋には、ワインも用意した。僕にしたら、4年ごとの大事な、人生で4回目の大イベントだ。


「純也、私も、内心とても期待していたんだ。今日こそは大丈夫」

「大丈夫だ、見てくれ、この勇ましい勇姿を」

玲奈が、笑った。笑顔が実に良い。


僕達はもう28歳、まだと言うべきかもしれないが、年月は残酷に過ぎていくんだ。だからこそ、今日という日を大切にしたい。


「乾杯」


ワイングラスを重ねて、僕達は口づけを交わした。濃厚で深い口づけ。こんなキスはしたことがない。玲奈は、大胆になった。自分から服を脱いで、僕の上着も手荒く脱がせる。こんな玲奈、見たことがなかった。

「玲奈、落ち着こう」

と言う僕も、もう我慢できなくなっている。当たりまえだ。4年間も無しで過ごしてきたんだ。今日は、タップリと玲奈を喜ばせよう。そして僕も、人生4回目のイベントを味わい尽くそう。

 BGMには、古いジャズボーカルの曲を小さく流した。僕は何度も

「玲奈、綺麗だ。玲奈いいよ」

 と囁いた。

その度に、玲奈の身体は反応し、うっすらと赤みを帯びてくる。黒目がちな瞳の奥に、青い火が揺れているのが見えた。

玲奈も燃えているのだと思うと、僕は一層たまらなくなってくる。その夜、僕達は絡み合い、もつれ合い、深く深く繋がった。


 二人目も、男の子だった。100発100中。2回しかしてないのに、二人の子どもを授かったのだ。何というコスパの良さ。

 まだ若いんだもの、3人目も期待してもいいくらいよと、玲奈の母親はとても喜んでくれた。もちろん、僕の親たちも両手を上げて喜んだ。


 「3人目ですか。それは、僕の32歳の誕生日まで待って頂かなければなりません。」

 僕は、次男の海斗を抱きながら、僕の人生で、一体何回できるんだろうかと考えた。

 人生80年と見積もっても、僕はたった18回しか経験できないんだ。あと、13回しか残っていないぞ。僕は、そう考えたら、とても焦った。他の男の人は、何回くらいしているんだろう。きっと、僕の何倍、いや何十倍もしているに違いない。人生は一回きり、やり直しがきかないなら、一度くらい違う女としてみてもいいのかな。いやダメだ。でも、ひょっとして。浮気なんかできるわけがない。何しろ、四年に一度しかないのだから。次は、32歳の誕生日。オリンピックが東京に来るんだ。僕にとっては、オリンピックより大切なイベントだぞ。


 僕の妄想は膨らみながら、僕と玲奈の日々は平和に過ぎていくのだった。

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