少女

あい

[1]

なんてつまらないんだろう。

何となく眩しくて目を開けたのに朝だとキヅいてしまうと、これから起きる全てがどうでも良くなる。無心で準備を済ませ、地面に張り付いてなかなか剥がれない足を無理やり踏み出し、玄関に向かう。まるでカギが閉まったままのドアをあけて外に出た。

いつも通りの通学路に嫌気がさすし、ローファーの踵が道路に擦れる音が耳につく。いつもの信号が目にはいった。青かった。信号まであと数歩ほど。肩からずり落ちる鞄を直しながら歩いた。あと10歩。ふと音が止まった。しまった、家にお気に入りのハンカチを忘れた事に気がついた。数秒悩み、ため息をつき、諦めた。ちょっと期待しながらマエを覗いたが、信号もやっぱり赤に変わっていた。またため息をつき、耳につく音で歩き出す。信号がいつもより遠く感じた。あと7歩ぐらいか。こうゆう日は決まって空が晴れている。歩いているのにも関わらず私は、空の青さに嫉妬して、目を閉じてしまった。…あと3歩…5歩だったか、なんだったかな。┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

その瞬間、クラクションの大きな音が脳の真ん中で響いた。一体、朝だとキヅいた時の気持ちは、なんだったのかと思い返すほど、視界が冴えた。響く先を見ると、逆光で真っ黒に染まった大きな車が私を影ごと飲み込もうとしていた。急停止しようとするタイヤと地面が摩擦する音。避けようと車体がレールとぶつかり合う音。そして私と車があたってコワれる音。私には、何も聞こえなかった。聞こえたのは、初めのクラクションと私の体が軋む鈍い音。体の隅から隅まで、全身の血管が生きようと迫ってくる。体を締付ける心臓の鼓動。そして、私は脳と脳をつなぐ糸がプツンと切れてしまった。








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