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 新型肺炎の流行で人口の激減が発表されてから数ヶ月後に第3世代が発表された。今までは成人タイプのみの発売だったが、子供・老人タイプも製造された。新型肺炎で亡くした人とまた暮らしたい家族等に普及を目指した。

 ベータ版だった人間の記憶移行も正式稼働となった。


「メネスカーはこれからもずっと生き続けます。そして、みなさんが愛する家族はメネスカーに移行が可能となります。お近くのキッド・ストアで最高のスタッフが責任を持って移行します。そしてまた家族の生活を再構築することをここに誓います」

 プレムが自信満々に発言した。アンドロイドの死は考えていない。それは人権団体に対する回答でもあった。


 アンドロイドの記憶移行に対して反発を持つものも一定数現れた。

 韓国では人権団体とのつながりがあった与党が「記憶制限」を制定。人権団体からの圧力があったのではとの報道もあったが、儒教の教えが強い国柄か、いとも簡単に制定され、韓国でのメネスカーの普及率は一気に一桁台へ、キッド・ストアは撤退となった。


 着実に反発している団体が力を付けていた。それだけ同じ考えの持っている人間がいることでもある。

 生命の風は、この国の第一野党「雄和党」と関係があった。雄和党にアンドロイドの死について法を整備することを狙った。当時は与党の「共鳴党」が新型肺炎の流行時に薬品会社から献金があったというスクープがあり、支持率が下がっていた。そして、総選挙目前で、アンドロイドに対する反対勢力の票がほしい雄和党、韓国での勢いをこの国でも起こしたい生命の風の利害は一致していた。


 マスクを付けたニックは賛同する人々で溢れかえるホールの壇上で手を高々に掲げ、キッド社に宣戦布告をした。

「もう少しです。アンドロイドにも死を!人間の死には安らかな眠りを!」


 第4世代では人間の記憶移行をした際に発生する「記憶ズレ」を修正。

 マイナーアップデートだった。

 この頃は総選挙が終わっており雄和党による政権交代が実現していた。マニフェストに掲げていた「記憶移行制限」が議会で認証されるところまで進んでいたこと、アメリカでは「アンドロイドの発売」に関して人権保護違反であると判決した州も出てきた、フランスでは人間による「アンドロイドへの暴力」も発生。


 アンドロイドと人間による壁がジリジリと出来始めていることからマイナーアップデートで留めたのではとITメディアを中心に広がった。

 

 ここから一気にキッド社は数字を落としていった。生命の風のニックは満面の笑みをメディアに見せた。

「我々の勝利です」

 

 少し冷静になればなるほど虚しくなる。一つの勢力が一つの技術を消したのではないだろうか。結果が見えていないからこそ、どうなるのかわからないのが当然であるのに。私の中で消えそうで消えない靄が頭の中で広がっている。

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