小さい花火――幼馴染の下手くそ魔法使いとの別れの時
八木寅
小さい花火
「ねぇ、今年もお祭行こうよ、マリー。ねぇってば!」
私は、呼びかける幼馴染の声にも耳をかさず箒で飛ぶ。ユージは危なっかしく操作しながらも煩くついてくる。
私たちは魔法使いが住む魔法の村で生まれ育ったが、同い年のユージは不器用なのか魔法を使いこなせない。
私がため息をついて振り向くと、ユージは嬉しそうに近づく。が、私は意を決していた。
「もう、私に近づかないで」
ユージは少ししょんぼりしたようだが、まだ何か言ってこようとしてたので、私はそれを制する。
「ユージ、もう私たち、大きくなったのよ。未だに上手く飛べない、あんたみたいなダサい男と一緒にいるのは勘弁なの」
その言葉が効いたのか、ユージは顔を下に向けるとそのまま下降していった。
これでいいのだ。
もう十五になる私たちは、そろそろ大人になって、幼馴染の腐れ縁を切るころなのだ。
ユージと縁を切った(つもりになってた)私は、女友達とお祭に行くことを決めた。
お祭までの日々、お祭に着ていく服やまだ見ぬ恋人の妄想などで花が咲く。
とてもお祭が待ち遠しかった。
が――、
病気になった。
虫垂炎。一週間の入院。当然、お祭も行けない。
毎年必ず行っていたのに、今年は行けない。花火も見れないし、屋台の美味しいものも食べれない。
毎年見る賑やかなお祭会場を思い出し、涙がこみ上げる。
天罰――。なんだろうか、ユージに冷たく当たってしまった。
ユージは何も悪くない。私を傷つけたことなんてない。
なのに、私は……。
虫垂炎の手術は成功したけど、私の心は浮かない。
だって、花火の音が鳴り響いてるのに、入院中の私は見ることができないのだもの。
病院の窓からは、方角が違うのか全く花火が見えない――。
「え?」
暗闇しか映らない病院の窓に、火花が散ったのが目に入り、窓を見つめる。
「あ! また出た」
先ほどとは違う色の火花がか細く散っていった。
気になった私は窓と近づく。
「あ……」
窓の下にはユージがふらつく箒にまたがりながら、魔法の杖を上に掲げていた。
「こ、この距離なら大丈夫かな? ち、近くないよね?」
ユージは私との近さを気にしていて、それを律儀に守っているのが、私はおかしくなってきて、ぷっと笑った。
「あ、マリーが笑った。良かった」
ユージがほほ笑む。
「僕、マリーに嫌な思いさせてたみたいでごめんね。
もう、これで最後にするよ。
だから、謝罪と今までの感謝の気持ちをこめて、花火、あげてみたんだけど……」
ユージが杖を掲げ、「えいっ」と顔をくしゃりとさせて力むが、鮮やかな火花がかわいく咲くだけで――、ユージは肩を落とす。
「ユージ! 私もごめん!」
私は杖を出して、ユージよりも大きな光の花を作ってみた。
「わぁ。さすが、マリー。すごいや」
ユージが目を輝かして、光の花にみとれる。
「私も。謝罪と今までの感謝の気持ちを込めて」
「僕の小さかったから、申し訳ないな」
顔を紅くして頭を掻くユージに、私はかぶりを振る。
「十分、ユージの気持ちは伝わったよ。ありがとう。そして、きついこと言ってしまってごめんなさい」
「ううん。僕、少し離れてみて分かったよ。僕は、マリーについてばかりで、頼ってばかりだった。僕もそろそろ独り立ちしてみるよ」
ユージが笑顔を見せ、私も笑顔を作る。
笑いあう私たちは、お互いに、もう昔に戻れないことを感じた。
「じゃあ」
「じゃあ」
手を上げたユージに私が手を上げると、ユージはふらつく箒で去っていった。
幼馴染が上げてくれた最初で最後の小さな花火は、一番のお祭の記憶として私の中に刻まれた。
もしかしたら、時が経ってもっと成長したら、近づけるのかなと思ってしまったのは、ここだけの話である。
小さい花火――幼馴染の下手くそ魔法使いとの別れの時 八木寅 @mg15
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