第2736話 73枚目:激戦最中

「えっ、「第五候補」もあれ受けたんですか?」

「まぁね~。とはいえ、私はほら~。【人化】を解いたら、傷のある部分を切り離せるし~」

「……私仕様のご飯とうちの畑用の栄養剤、どっちがいいです?」

「どっちも頂戴~」


 そういや「第五候補」は植物系種族だったな。なら自己再生能力が高いから、こういう傷に依存する状態異常は、他と比べると低リスクで済むのか。その分お腹は空くみたいだけど。

 なお私と「第五候補」がさっさと大部屋から脱出したのは、治療もあったがそれより、ラスボスの視界に入らないようにする為だ。何しろ魔族の正当進化だからな。

 魔族の弱点は魅了。ここぞという所で使ってこっちのタイミングで隙を作るならともかく、「第二候補」とサーニャが戦ってるところに余計な要素を持ち込みたくない。


「まぁ脱出の時は、流石にあの2人を同時に相手するって事で、余所見をしている暇は無かったようですが」

「あの2人も~、ちゃんと自分達に視線を集めるように戦ってたものね~」


 そうだな。支援しようにも、あの2人の戦闘が始まったら邪魔をしないのが精一杯だ。もちろんいくらバフを重ね掛けても動きが良くなるだけだし、壁系魔法を設置したりすればうまく使ってくれるだろう。

 そういう意味では、それが出来る後衛をあの水晶玉のようなものの炸裂から守った時点で前衛の仕事は完了している。だから治療の為に大部屋から出ても大丈夫だ。

 ……ま、もちろん後衛だけが離れたところから支援していたら、ラスボスに狙われたら生き残れないかもしれないが。しっかり広さのある大部屋なんだから、パーティーごとに分かれて動いても十分スペースはあるし。


「お嬢」

「おやエルル」


 まぁでもある意味ラスボス戦らしくなってきたな、と、小さく領域スキルを展開して状態異常の治療をしていると、エルルが戻って来た。って、あれ? 眉間にしわがある。

 この一見上手くいってる状態でエルルが戻って来て眉間にしわ、って、ダメな気がする、な?


「今、あの不死族とアレクサーニャが戦ってるやつなんだが。……たぶんあれも人形だぞ」

「……。根拠は?」

「心臓の調子が変わらないし、そもそも音が違う」

「あー……」


 それは……確定だな……。どうやってそれを聞き取ったのかは分からないけど。種族特性を全力発動しながら近づいたとしても、あの戦闘してるところに近づいてそんな音を聞き取るとか、どうすればいいんだ。

 まぁ方法論はさておき、あれも人形となるとまずいな。「第二候補」とサーニャの2人がかりで戦える相手がお代わり可能とか、ちょっと待てだぞ。本体の戦闘力がせめて同程度までならいいが、大体の場合こういうのって本体の方が強いから、それも良くない情報だ。

 もちろんエルルの報告は周りにいる召喚者プレイヤーにも聞こえているし、その中には司令部の人も混ざっている。当然即座に別動隊へも連絡が入れられた筈だ。最悪、あの大部屋そのものが罠だった可能性まであるからな。


「別動隊より返事がありました。少なくとも異界の大神の力を利用する源は本物で間違いなく、同じ形のものは他には無い筈、との事です」

「……って事は、本体は自分に出来る範囲で異界の大神の力を取り込んだ後、という事になるでしょうね。問題はその本体がどこに潜んでいるかですが」

「既に空間の再探索を開始しています。しかし人形とはいえあの戦闘力を持つ相手を放置する事は出来ない為、戦力配分は変えられません」

「仕方ないわね~」


 いやまぁ確かに、城の探索の時も、一番大事な異界の大神の分霊は鍵を見つけて、それを持った状態でないとそもそも見つけられない部屋にいたけどさ。

 あーもー、ほんとギミックボスって厄介だな……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る