第2640話 73枚目:残る問題
しばらく見ていたが、大神の神殿の代表として出てきている神官さんがなかなかやり手だっていうのが分かったぐらいで、話はずっと平行線のようだ。まぁそれはそうだな。大神の神殿にこの町の神ことスライム(神)がいるのは本当なんだし。
かといって、今からスライム(神)の神殿に行って証拠を持ってくる、というにはたぶん時間が足りない。何しろ推定元凶の女性と一緒に来た神官さん達がだいぶ殺気立ってるからな。
しかしもちろんこのままスライム(神)を引き渡す訳にはいかない。当たり前だな。魔視の強度を上げたら、相変わらず推定元凶の女性は薄皮一枚下が焦げ付きのような色で真っ黒なんだから。
「あのスライム(神)相手であるなら、大神に対する者と同じ判定でいい筈ですし」
と言う事で、私が張った防御魔法の外側に陣取って帰る様子の無い集団の後ろにこっそり降りて、最低出力で【調律領域】を展開してみた。
そしたらまぁ、その途端にみるみる推定元凶の女性の顔色が悪くなっていったから、もう笑うしかない。笑わなかったし、周りの神官さんは不思議そうな顔で慌てていたけど。
もちろんそんな状態で長居できる訳もなく、スライム(神)の神官さん達はばたばたと自分の神殿に戻っていった。ははは、まぁそうなるわな。
「はい?」
で、ヘルタの部屋に戻ってスライム(神)を回収し、眠っているヘルタと同室の神官見習いの人を起こさないようにこそこそスライム(神)に話を聞いたんだが……。
「既に神が1柱取り込まれている?」
〈はい……。その、救出されてから、大神の神殿で休ませてもらい、多少は力が戻ったのですが……〉
どうもな。あの推定元凶の女性、既にこの町にいた神を1柱取り込んでいるらしい。ちょっと待て。
スライム(神)がいうには、この町には真水を司る自分と、海水を司る神の2柱がいたらしい。その2つの神殿を中心に町は発展していったから、2つの図形を組み合わせたような形になっているのだと。
当然今のような断崖絶壁ではなく、町が本来の大きさだった時は、大きな階段のように海まで続く段差があったのだそうだ。町の人間がそこを階段に加工する事で、比較的海との行き来もしやすかったとの事。
「それで、その、海水を司る神が取り込まれている、と?」
〈恐らくは。何しろ、捕まったのもあの、名前の無い邪神の眷属でしたし、直接みている訳では無いのですが……その、水色の髪と、濃い青の目をしていませんでしたか?〉
「していましたね」
〈……この町では、どちらも水を司る神がいるという事で、確かに青色に近い色を持った人が生まれやすいのです。でも、神の色でもある為、青色そのままを持った人が生まれる事は、まずないのです〉
つまり、あそこまでくっきり、見間違いようもない程青い色を追っているあの推定元凶の女性は、海水を司り、潮の流れを読んだり高波から崖を守ったりしていた神を取り込んでいる可能性が高い、と。
で、一応聞いてみたのだが、この町が半分に……つまり私が見た、断崖絶壁にくっつくような形になったのはいつかと聞いてみた。ら。
〈あの時は、すごい衝撃でしたから、よく覚えています。今から、ちょうど1年前です。……あぁ、あぁそうです。あの時も、新月の夜でした〉
「なるほど。その時取り込まれ、神が1柱消えた影響で、海に繋がる道と町の半分が崩れ落ちたと」
そういう事らしい。なるほどな。妙な形をしているとは思ったが、本来はちゃんとした前方後円墳型だったのか。
しかし神を取り込む、なぁ。スライム(神)の言い方だと、少なくとも同格か、何なら海が近い分だけ海水を司る神の方が格が上か力が強い感じだ。いくら邪神の眷属と契約に類する何かをしていたとして、1年程度で完全に取り込めるものかね?
……もしかすると、さっき【調律領域】を展開した時の反応。邪神の眷属と契約したからスリップダメージが入っただけじゃなくて、取り込まれて吸収されつつある形の神にステータスアップがかかった分もあったか?
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