第2617話 73枚目:行動対応
さて、とりあえず上空に逃げたというか、ワタメミを逃がしたのはいいとして。ここからどうするかな。恐らく森の変異の核となっているのは、あの木をベースにした趣味の悪いオブジェクトだ。
ただしあのオブジェクトを作ったのは、恐らく今こちらをねっとりした視線で見上げているあの、とりあえず見かけは男だろう。ワタメミが口元を覆って震えているところを見るに、村人の中に完全に溶け込んでいたらしい。
なのだが、まぁそれはそれとして。じっとこちらを見上げるばかりのその男の様子に、私は積極的な追撃の姿勢、もっと言うなら、こちらを仕留めようとする意図が薄い事に気付いていた。
「座標指定、展開位置固定、必要魔力倍加による外部展開オプション起動。視線が通るという事は私にとって、魔法の射程内という事。全条件クリア――[カテドラル・エリア]!」
すなわち、時間稼ぎだ。そしてこのタイミング、この状況で時間を稼ごうとするのであれば、それはもちろん、第二の防衛目標である村に何か手を出すって事だろう。
なので、上空から村の方を見て、内部と外部を隔絶するという仕様上、術者を範囲外に置く状態で発動すると、維持魔力が跳ね上がる上に術者ですら中に入れないという条件になる魔法を発動した。
私の事は見えないのだろうが、それでもこちらを見上げた視線が訝し気なものになったのは見えていた。ついでに異形の森の一部が持ち上がり、目が鈴生りになった木の背丈が伸ばされたことも。その目が全て村の方を向いていた事も。
「ははは。私は、守る事に関しては、まぁまぁ自信があるんですよ」
「……使いさん?」
「なに。……推定、名前の無い邪神の眷属あるいは契約者の思惑など、正面から打ち破るのみ、という話です」
「!」
まだその腕は、地面に突き刺したような形で同化している。つまり少なくともあの男の腕は邪神の能力が宿ったものであり、あぁやって同化している現在、この森を文字通り体の一部として使えるのだろう。
その動かせる精度がどれほどのものかは分からないが、村で起こる筈の騒ぎが起こらなかった。これを察知したらすぐに「目」を向けられる程度には扱いに習熟しているようだ。
あの村に異変が起こった始まりは数週間前だという。だが、「練習」する期間を含めたりすると、あの男はもっと長くあの村にいたのかもしれない。……あるいは、村で生まれ育った生粋の村人が、邪神に魅入られたか。
「……イーゴル、さん、なの」
さてここからどうでるかな、と思っていたら、球状の防御の中で座り込み、地上を見下ろす形になったワタメミが呟いた。
どうやら名前の無い邪神もしくはその眷属と契約したらしいあの男は、イーゴルというらしい。村生まれ村育ちであり、森を熟知し獣を狩り、肉を供給すると同時に村を守る、狩人だったようだ。
なるほど通りで気配の消し方が上手い筈だと納得した訳だが、村人からも信頼を寄せられ、その紹介を受けて同様に信じていたワタメミには、思わぬ裏切りとなったらしい。
「どうして……どうして? だって森は、大事な場所だって。俺は村を守る狩人だから、獣を狩れるのは俺だけだから、だから、村の皆は家族で、家族は俺が守るんだって……そう、言ってたのに……」
あっこれなんかヤバイ気配がするな。具体的にはワタメミが闇堕ちしそう。それを阻止しに来てるんだってば。
「さて。本当の所は本人にしか分かりませんが、聞いて答えてくれるとは思えませんね」
「……使いさん。で、でも、お話しするのは大事だって、大神様もいってたよ?」
「そうですね。話をするのは大事です。……でも、話と言うのは、両方に話をしようと言う気が無いと出来ないものです。故にこそ、話をしようという思いを忘れてはならない、と言われるのですから」
「そ、それなら、イーゴルさんだって……」
「ワタメミ」
おろおろしながら、それでもワタメミの意識は私に向いた。今展開しているのはただの防御魔法だ。何らかの特殊能力で精神干渉が出来たとしても、防げない。
だからまずは意識をこっちに向ける事。話をする気が無い奴から、話をするつもりのある私に焦点を合わさせる事。これで第一段階。で、次にどうするべきか。
「修業とは、何だと思いますか」
「……え?」
もちろん、説得だ。
恐らくは見た目通りに年若い精神のままの
本来は親とかそれこそ大神とか、何なら先輩
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