第2607話 73枚目:退去方法

 どうやらこちらの世界に、石像を作って鑑賞するという娯楽は無いようだ。というかそもそも像と言うのがぬいぐるみのように、子供におもちゃとして与えるようなものしかないらしい。

 子供に与えるものであれば、安全で軽く丈夫なものがいい。と言う事で木や布のものしか無かったんだそうだ。なるほど、世界間常識ギャップだな?


「まぁ問題は、少なくとも数十年、下手したら数百数千年先まで、自分の姿が像として残るという事に対する羞恥心に、モデルとなる人が耐えられるかどうかですが」

「はっ! 死んだ後のことを心配するなんて余裕がある証拠じゃないか」


 どうやらアレリーと現場監督さんに拒否権は無いらしい。……いや、案外アレリーはあれで意外とノリノリでモデルになるかも知れないな。少なくとも、街の代表を務めるだけの胆力と覚悟はあるんだし。

 しかし今回は一体どうしたらクリアになるんだろうか。今石像を作る案を伝えに占い師さんが新弟子さんを連れて現代表の所へ行って、アレリーと現場監督さんは石の色見本の欠けている色が何かを推測している。

 つまり私は1人残されて暇なんだが、窓から外を見ると、太陽がそこそこの高さに上っているようだ。ふむ。前回クリアしたのと近い時間にはなってるか?


「最大2日という事ですから、恐らくまだ大丈夫だとは思いますが」


 ただ、リアル今日がイベント最終日で、推定あと3体分の過去編があって、そして何ならそこから本体との決戦だからな。急げるなら急ぎたい。何せ時間が無いんだから。

 で、たぶん現時点で私の介入で出来る事はやりきった。思ってないところに思わぬ裏ボスがいたりもしたが、それも何とかなっただろう。というか、占い師さんが追い詰めてアレリーがトドメを刺してたし。

 だからもう出来る事は無い=帰ってもいい筈なんだが、まだそれっぽい兆候が来ないな。と首を傾げていたのだが。


「……。ん?」


 私が残っていたのは、空き部屋の1つであり、ちょっとした話をする為の部屋だ。応接室という程堅苦しくなく、けれどちゃんと机と椅子が用意してある部屋だな。

 そして何故私が残っていたかというと、私以外の全員はそれぞれのやる事をやっているという事と、この部屋に次代の神である白い石が置かれているからだ。ようやくお屋敷の人達に、この白い石が修神おさめがみだって認識が共有できたからな。

 なので一応、そんな人はいないと思うが、私が護衛として残っていた訳なんだが……何か、その白い石が光っている。いや魔視で見たら白いオーラを纏っているけど、これはたぶん通常視界でも光ってる。それもだんだん光の強さが上がっている。


「おっと」


 あっこれはまさか、と思って目を覆うと、案の定、カッッ!!! と強い光を発する白い石。おう。突然どうした。光っても今は、メイドさんの1人もいないぞ。何せ私は普通の人には見えないからな。

 何だったんだ、と思いつつ目を覆った手を降ろすと……うん。テーブルが変形している。じゃない。真っ白い石のテーブルの上に、それなりの大きさの白い石が出現している。

 大きさとしてはそれほどでもないな。20㎝四方の高さ30㎝ぐらいか。軽く横にずらしてみたら動いたので、テーブルが変形した訳じゃないようだ。しかし何故今ここかつこのタイミングで。


「…………。あぁ、もしやまだ加護や祝福を与えられる程の成長をしてないから、報酬として?」


 その、今まさに出現した石の向こうに隠れてしまった白い石の修神おさめがみを覗き込むが……何か言っているとしても、聞こえないんだよな。つまり、これと言って変化は無い。無機物って難しいなぁ……。

 とはいえ、今に限ればこの石を受け取れば、それが正しかったかどうか判明する。なので私は一言お礼を添えて、その、今の私でもそこそこ重さを感じる石を持ち上げ、抱え込んだ。

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