第2483話 73枚目:応急対処

 真夜中という事もあり、召喚者プレイヤーの稼働率と士気は低いと言っていい。しかも今の一撃がかなり派手だったのもあって、住民の仲間も一時撤退を選ぶ人がそれなりにいるようだ。

 まぁ仕方ない。それに砦は作りかけだが、前回のイベントエリアの東端にはもっとちゃんとした砦とそれを繋ぐ防壁が作られている。せっかく取り返した土地をモンスターに奪われ返すっていうのは、「眠り忘れる外法の禍川」で経験済みだからな。対策はしている。

 だから、そこまで下がって体勢を立て直す。というのも、間違いではない。だから無理に止めようとは思わない。


「だからと言って、あのモンスターの出現ペースを見る限り、恐らく正解でもないんですよね」


 なんだが。私はそこで、領域スキルを全力で展開したまま前へ出ていた。エルルもサーニャもかなり渋っていたが、どちらにせよ殿は必要だし崩れた砦から脱出する時間も必要だと説得したらしぶしぶ下がってくれた。

 まぁあの超広範囲の一撃、私の所まで届いた全域攻撃は範囲と火力が高い分、砦や壁などの遮蔽物があったらその威力が大きく減衰する、という仕様があったらしい。なので建設中の砦の防衛に回っていた竜族部隊の人達が、とりあえず全員生きてはいたのもあるだろう。若干名エルルと同じく無事ではなかったようだが。

 あともう1つ幸いだったのは、あれだけ「モンスターの『王』」に由来する建造物が乱立していても、領域スキルが弾かれなかった事だろう。多少は相殺されているにしても、私の領域スキルの出力は高い。祝詞も捧げているから、その効果は敵陣近くまで移動したところで落ちないのだ。


「ははは。あれだけ乱立していた建造物が、手前から順番に崩れ落ちていくのはなかなか壮観ですね」


 モンスター? 辿り着けてる訳がないだろう。モンスターそのものは普通の奴みたいだし。というか、少しでも辿り着く可能性があったらエルルとサーニャによってもっと後ろに下げられている。

 そして私が最前線に出て、一部とはいえ敵を抑え込んでいると、司令部もそれを利用するしベテラン勢はそれに応じる。具体的には、しっかり踏ん張りスキルを鍛えてさっきの一撃を耐えた召喚者プレイヤーは、構造物への攻撃に参加し始めた。

 どうやら領域スキルの効果が通るのと同じく、攻撃すれば壊せるというのも変わらないようだ。もちろん濡れた樹は物理攻撃を溶かして無効化するし、歯車のあるビルはちゃんと歯車を狙わないといけないし、白くて四角い構造物は防御力が高く、蠢く塊は周囲のモンスターを吸収して回復するが。


「だからといって、洗脳能力と寄生能力を持つモンスターが厄介で無い筈が無いんですけど」


 構造物自体は普通の尖塔であり、その窓からボロボロと無数のモンスターを出してくるだけだが、問題はそのモンスターだ。他のモンスターや構造物にくっついて、それを強化しているからな。見えてるぞ。

 とはいえ、それぞれには相性というものがある。濡れた樹は魔法攻撃で、歯車はちゃんと狙って、白いのは一撃が大きい攻撃を、蠢く塊は広範囲攻撃で周辺モンスター諸共吹き飛ばせばいい。

 寄生しているモンスターは強さを引き上げる上にダメージもある程度カットするようだが、そちらも先に寄生しているモンスターを狙えばいいだけの話だ。それに「寄生」というだけあって、触れれば溶ける樹や歯車にしか触れられないビルにはくっつけないようだし。


「お嬢。とりあえず前線の引き上げ準備は済んだぞ」

「分かりました。その内司令部から前線を下げる指示が出るでしょうから、それに合わせて下がります」


 とはいえ、今は日付変更線直後の深夜だからな。リアルでも内部時間でも。流石にこれ以上起きていると朝が辛い。

 それにエルルも、体は治ったとはいえ一度腕が吹っ飛んでいる。という事は服(鎧)も壊れているから、修理が必要だし。

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