第2482話 73枚目:イベント開始

 軋む音、というより、もっと直接的に。硬い物を、本来動かない物を、無理矢理に力でこじ開ける・・・・・音。砕けるとか罅が入るとかそんな温いものではない。単なる破壊よりもより強引に、押し通る・・・・音だ。

 それが響いた瞬間に、弛緩した空気は消え去った。やはり来た、と、来るのかよ、のどちらが強いかは分からないが、一気にその場の空気が臨戦態勢のものへと切り替わる。

 私ももちろん、即座に祝詞を捧げて領域スキルの展開準備をした。設定は透過状態、弾かれると困るからな。どれくらい通るかは別として、しっかり相殺させてもらう。


「召喚者の予想が当たったか!」

「こんな予想当たりたくなかったですねぇ」


 エルルは一瞬顔を引きつらせていたが、すぐ隊長として指示を飛ばしていた。まぁ、何が来るか分からないから、様子見と警戒だ。後は、まだ建築中の砦の防衛へ戦力を割り振ったようだ。

 その間も、メギリ、メシリ、という音は続いている。見た目陽炎のようなものに変化は無いが、それでも押し通ってはいるのだろう。この音を聞く限り、そうとしか思えない。

 たっぷり5分ほどをかけて、ようやく陽炎のようなものに変化が現れた。……こちら側へ膨らむ形でたわむ、という形で。


『総員、防御態勢――――っ!!!』


 司令部からの指示に応じる形で、私も全力で領域スキルを展開する。一気にセット装備の【周辺味方補正】にカウントされる味方の数が跳ね上がり、それはステータスへの加算補正として反映され、領域スキルの効果も引き上げられ



 何かが砕ける音と共に。

 凄まじいダメージが叩き込まれた。



「っぐ、な……!?」


 血を吐く事は無かったが、これは違う。危険域の前で踏み止まったんじゃない。逆だ。即死級のダメージを叩き込まれたが故に、踏ん張りスキルが発動した。だから血は吐いていない。

 幸いなのは、そのダメージが「1撃」だったことだろうか。何せ私の強みは耐性と回復力だ。数秒あれば数割は回復する。

 だが。


「やられ、ましたね……! エルル! 被害は!?」

「……相当やられたな。全員、大神の加護があるから、今見えない奴らも後ろに戻るだけで済んでる筈だが」

「まぁ、この開幕全域攻撃は予測できません。本当に、全員大神の加護を分け与えてテイム状態にしておいて良かったです」


 どうやらモンスターは【解体】を持っていないという判定になるらしく、モンスターに倒された場合はその場に何も残らない。だから、たとえ今のを避けられずに即死したとしても、姿が見えなくなるだけだ。

 これほんと、テイム状態じゃない、死んだら終わりの住民が混ざって無くて良かったよ。避けられないし予想できないだろこれ。というか、領域スキルを全力展開した私で踏ん張りスキルが発動するとか、絶対一掃する為の一撃だっただろ。

 まぁでもその、一掃するつもりの火力はいかんなく発揮されたようだ。割としっかり人数がいた召喚者プレイヤーも、残っているのは数割ってところだろうか。


「姫さん生きてる!? 生きてるね! エルルリージェ、腕どうしたんだい!?」

「拾っておいたから後で治す」

「今治してください。というか腕吹っ飛んでるならもうちょっと痛そうにしましょう?」


 というかエルルも無事じゃなかったんだが。あれか? 砕ける音が響いただけあって、あの陽炎のようなものを砕いて、それが手榴弾みたいに飛んできたって事か?

 とりあえずエルルの腕は私が治して、サーニャも被害を見て戻って来た状態で、今の一撃で使ったのか、陽炎のようなものが無くなった最後の大陸東端を見る。

 で。現実逃避したくなった。ゲームだけど。


「……ははは。まぁ、見事に見覚えのある建造物ばかりが、実に無節操に乱立してますねぇ……」


 モンスターをボロボロ零し続ける塔。白くつるりとした四角い建造物。表面が蠢く肉色の塊。ぐっしょり濡れそぼって雫を落とし続ける樹。表面に歯車が埋め込まれたようなビル。

 あぁ、確かにラスボスと言えば、こういうのもアリだよ。テンション上がる仕掛けだし、他のゲームならこうこなくっちゃ、と同意するまである。

 だがなぁ。フリアドではダメだろ。



 ここまで出てきて復活レイドボスにならなかった「モンスターの『王』」の能力詰め合わせとか、それはダメだろ……!!!

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