第2432話 72枚目:突破後変化

 火曜日の夜のログインいっぱいを使って、少なくとも私が突入できる範囲の空間の穴は攻略し終わった。うん。やっぱり推定最後の、「脱出用魔法陣」が出る大部屋は燃え尽きるのに時間がかかってたな。他の部屋と比べると。

 その調子で攻略したからか、レイドボス本体とみられる真っ黒い綱で出来たドームのようなものから出てくるモンスターの数はすごい事になっていたようだが、それは派手に戦闘したい人達が何とかしたようなのでよし。

 で、水曜日の夜。


「うーんこの……」


 土日ほどではないが召喚者プレイヤーの稼働率が上がるタイミングだし、私が昨日空間の穴から突入できるイベントダンジョンをごっそり燃やしてクリアしたからリソースも削れている。という事で、ほとんどの人は通常空間に戻って来れていたようだ。

 残り何人かも割とすぐに戻って来たとの事で、無事私がログインしてしばらくした頃に、空間の穴に吸い込まれた人は全員脱出できた。となると、何か動きがあるだろうなぁ、とは、まぁ司令部もベテラン勢も皆思っていただろう。

 そして実際、そのタイミングで推定本体に動きがあった、んだが。


「大体分かっていましたが本当に厄介というか面倒というか……お前らがタッグを組むんじゃねぇ感がひしひしとしますねぇ……」


 まず、だいぶ小さくなった真っ黒い綱で出来たドームのようなものが、ぶわっと解けた。解けた黒い綱は周囲に突き刺さり、野良ダンジョンから伸びてきた時のようにドームの骨組みのような形になっている。数が違うし綱同士の距離もバラバラで、ドーム型の内側まで突き立っていたけど。

 その後で、ミシリ、と空間が軋む音が聞こえた。瞬間、大半の人は身構えただろう。だが続いた破砕音と同時に出現したのは空間の穴ではなく、空間に走る罅割れだった。それも、地面に突き立った綱同士の間を繋ぎ、壁を作るような形で。

 バキバキに罅の入ったガラスを何枚も重ねたような状態では、その奥に何があるのかは見えない。だがこの空間の罅割れも、黒い綱が突き立って柱のようになっている形も、嫌という程見覚えがある。


『全体連絡! 黒い綱及び空間の罅割れは攻撃無効! かつ罅割れを調べる事でイベントダンジョンに突入する事が可能なようです! ただし突入制限がついている為、パーティを作る際は注意して下さい!』


 そしてその変化が落ち着いたところで、黒い綱の根元から、大量のモンスターが出現し始めた。なるほど? このモンスターの群れを突破した先で突入制限付きのイベントダンジョンに入り、突破しないといつまで経っても終わらない訳だな?

 なおかつ、どうやら世界中に出現し続けている野良ダンジョンの発生ペースも一段と上がったようだ。うん。総力戦だな? 本当に止めろと。まぁやるしかないんだけど。

 しかし突入制限なぁ。と思いつつ領域スキルを維持した状態で待機していると、ウィスパーが届いたカバーさんからだ。


『どうしました、カバーさん』

『はい。突入制限が「竜族」かつ「召喚者」のイベントダンジョンが確認されました。人数制限も1人ですので、万端の準備の後突入をお願い致します』

『まぁ来るでしょうね。分かりました』


 だろうな。臼の方のオリジナルの時にがっつり分断されて、最後までうちの子と合流できなかったのは忘れてないぞ。綱の方も何かと裏面やら何やらで分断してきたからな。そりゃ分けるだろうさ。

 ま、今回もティフォン様とエキドナ様とボックス様に追加の捧げものしてから来てるし、準備はここに来た時点で万端だ。カード化した灯りの奇跡の炎を移した松明もたっぷりと持っている。

 もちろんこれを無視して通常のダンジョン探索をさせられる可能性もゼロではないし、更に空間的な意味で隔離する力を強めているかもしれない。……が、まぁ、その時はその時で、真面目に正面から突破するだけだな。そこまでするなら、罠とかの難易度は下げざるを得ないだろうし。

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