第2316話 70枚目:表の進捗

「お嬢、定時連絡だ。不死族は……ん?」

「こちら、不死族のジンペイさんです。骨だったのですが、それ以外を全部そぎ落とされていただけだったらしく」

「あぁ……いやまぁ元気になったんだったら良かったが、んん……?」

「双子だそうですよ」

「……。って事はまさかあの時の、いや、森人族だっていうのはこっちが勝手に思ってただけか……!」


 あまりに大量かつ予想外の情報を一気に聞いたからか、ジンペイさんが処理落ちフリーズから戻ってこない内にエルルが来たが、やっぱりエルルもジンペイさんの顔をどこかで見たって事に気付いたらしい。まぁ気付くよな。当時から気にしてたもんな。

 で、そのまま「表」の状況を聞いている間に、どうやら何とかある程度は話を飲み込んだらしいジンペイさん。濁点が多い感じのうめき声を上げて頭を抱えてしまった。これはまだ時間かかりそうかな。

 エルル達の方は、エルルがちょいちょい抜けてるのも気付かれていなければ、この「U5」でジンペイさんがフリーになっているのも察知されておらず、何なら研究所の機能がそろそろ掌握されつつあるのも隠し切れているらしい。


「え? 仮にも研究者なんですよね?」

「あの召喚者がそういう意味で強すぎるんだよ……」

「あぁ、カバーさんが」


 うーん有能。そろそろその一言では済まされない域に入っている気もするが、一言で言うのであればやっぱり有能。今回は皆に心配かけちゃっただろうしその後もあれだし、何かボーナス出すべきかなぁ。

 というのはともかく、進捗としては非常に順調。そろそろ周辺の防御に干渉している推定モンスターへ攻撃できるようになるらしい。それに必要な準備をしているので、他に手を出したり調べたりする余裕はないようだ。

 まぁ余裕はないというか、余裕をなくさせてるんだろうが。だってその必要な準備の割り振りをしてるのってカバーさんだろ? 研究所の人に多めに仕事を割り振っていても分からないようにする、ぐらいはしてるだろうし。


「……ところで、大丈夫なのか?」

「……ちょっと情報量が多すぎたらしく……まだ召喚者プレイヤーの説明も出来て無いんですが」

「……流石に無理があったか」


 そういう話をしている間も処理落ちフリーズから戻ってこないジンペイさん。それに対してエルルもちょっと心配そうだったが、これはまぁ、仕方ないだろう。流石に、数年だと思ったら1万年経ってるとは思わない。

 個人的にはこの捕まった状態に「慣れている」っぽい部分が気になるが、それは恐らく今追及するべき事ではない。そんな時間も無いだろうし。最優先は、他の被害者にかけられた罠魔法の解除だ。

 その為もあって一番最初にジンペイさんを救出した訳だが……ちょっと情報の出し方をミスったな。詳しい話はあとで、って誤魔化して、まず被害者の救助を完了してしまうつもりだったんだが。


「まぁ私が悪いんですけどね……あの海辺でしれっと参加してきた方についてつい口に出してしまって、その流れで1万年経ってるっていうのをぶつけてしまったので……」

「思ってたより情報の出し方があれだったな」

「いえだって、骨だと思ったら回復できなかっただけで、顔を確認したらその」

「……まぁ分からなくはないが」


 だいぶ失礼な事を言ってしまっているが、それぐらい気付いた時の衝撃がデカかったんだよ。

 でも、救出直後にどれくらい動けるかは分からなかったし、そもそも回復するかどうかも不明だった。というか、そこには時間がかかる前提だった。だからここでちょっと長めに処理落ちフリーズしても、問題ないと言えば問題ない。

 それにカバーさんが有能なので、たぶんその内外部操作で罠とか仕掛けとか、全部まとめて解除されそうな気がするし。残り時間はまだたっぷりあるので、救助はまぁ間に合うだろう。大丈夫だ。

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