第2287話 70枚目:突入確認

 で、突入してみたんだが。


「……あー……」


 内部はゴツゴツした岩をくりぬいたような空間であり、通路の形はかまぼこ型、高さと幅がそれぞれ3mずつほどで、最初に突入した部屋は10m四方といったところだ。他にも部屋はあるが、全て同じ大きさらしい。

 無数の部屋と無数の通路が、これまた無数の枝分かれによって複雑に繋がる事で立体迷路になっていて、しかもその周囲には危険がびっしり、という高難易度で納得しかない構造だった訳だが、その空気がな。なんかちょっと引っかかったんだ。

 しばらく考えて思い当たった事が当たりか気のせいか確認する為に、念の為周囲へ警戒してもらった状態で、領域スキルを範囲は狭く、出力は本気で展開した上で、「指針のタブレット」を取り出して周囲を確認してみたら。


「当たりでしたかー……」

「待てお嬢。なんか予想外の方向で厄介事が出てきたのは分かったが、その小さい像はなんだ」

「いえ、たぶんこのパターンだと喚ぶのが一番早いんですよ」

「ねぇそれ異界の大神の分霊の像だよね? 喚ぶの? ここに? なんで?」

「何故かって言えばそれはもちろん」


 領域スキルを解除して、一応持ち込んでいた高さ10㎝ほどの像を取り出すと、エルルとサーニャがストップをかけてきた。

 でも、喚ぶのが一番早いと思うんだよ。何でかって言えばな。


「この場所、以前招かれた異界の大神の神域に近いというか、ほぼそのままで神聖さが薄れた感じの空気なので……」

「は?」

「は!? ここが神域!? なんで!!??」

「なんでと言われましても、私にも理由までは……。ただ、神域と言ってもどっちかっていうと朽ちた残骸に近いんじゃないかなって気がするので、核になっていた分霊もお察し状態じゃないかなと」

「なるほど。ですから比較的健全な分霊を召喚し、そちらに制御を任せる事で攻略可能な状態にする、という事ですね」


 うん。反応としては2人、特にサーニャの方で合ってると思うんだが、解説としてはカバーさんが大正解という。


「こういう状態であるなら、あのワームというのも本当かどうか分かりませんからね。むしろ成れの果てである可能性もあります。そしてその分穢れを毒や災害という形で限界いっぱいまで溜め込んでいるでしょうから……まずはエルルとサーニャ、これを」

「腕輪?」

「……綺麗だけど、なにこれ。もしかして共鳴結晶?」


 まず像を設置する台座を床に置いて、そこに像を設置。その後で、エルルとサーニャに透明な腕輪を渡した。サーニャの推察通り、びっしりと表面に彫りこみがなされているそれは、共鳴結晶で出来たものだ。

 同じものを私も腕、ではなく「アクセサリストッカー」に引っかけて、あと2個ある腕輪をカバーさんに渡した。そして、5個の腕輪とセットになっている、同じく透明な首飾りを取り出す。


「その腕輪は、この首飾りに魔力を供給する為のものです。そして首飾りの方は、着用者にクリーンを発動させ続けるものです。といってもまだ魔力を共有できる距離が短いので、常用は出来ないんですが」

「こんなのいつの間に作ってたのさ」

「……ん? 待てお嬢。その魔力を共有する仕組みって確か、柱みたいな道具でどこかが作ってなかったか?」


 そしてカバーさんが自分で1個つけて、もう1個をソフィーナさんに渡しているのを見つつ、エルルの気付きに気持ちちょっと目を逸らした。

 うん。そうなんだ。あの、すっごいお高いオベリスク。あの巨大な砂嵐を起こした時に使ったあれと、ほぼ同じ技術が使われてるんだけど。


「……研究施設の人達が、その、興味のままに解析して、それがまた成功してしまったようで」


 なのでこのワンセットは、うちで作られたものとなる。ははは、いやぁ、まさかのまさかだよ。解析できたらしいんだ。あれの仕組み。いや確かにここ最近、特にこれと言って依頼は出してなかったけども。何やってんだろうな、あの人達。

 ちなみにその解析成功にはちゃっかりこっそりルールが噛んでいたりするのだが、それは流石に大きな声では言えないからね。……というか、ルール本人からその経緯を聞いた時は目を疑ったぞ。うちにいる魔族の人に図書館から資料持ち出しの許可を出したら、その中に何故かルール(本体)が混ざってたんだっていうんだから。

 なお、完全な偶然というか、魔族の人はルールの事を「図書館の目録本」と認識して借りていった事が分かっている。いやそうだけど。そうなんだけどさぁ。



 ……まさかそこで他の資料本やメモ書きに細工できるようになったルールが、誰が書いたか分からないメモ書き、って形で、研究に参加するようになるとは思わないじゃん……?

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