第2227話 69枚目:一時撤退

 流石に高レベルなモンスターの群れとはいえ、私の魔力ステータスと精霊魔法のレベルで設置された壁系魔法、それも二桁どころか三桁になるような塊を相手だと、力押しの突破にはそこそこ時間がかかったようだ。

 ま、私の方も突破されそうになった段階で壁系魔法の塊をお代わりしたし、効果が出たのを確認した精霊さん達が更にやる気になってくれて、威力の方は上がっていたから、結局私がログアウトするまで突破そのものは出来なかったんだけど。

 そしてモンスターの群れの内何割かがそこで足止めを食っているという事は、他の場所に手が回るって事だ。具体的には、出現スポットから出てくるモンスターの殲滅と、ダンジョンの攻略が進む。


「さて、時間ですが……大丈夫そうですかね」


 もう一度最後に全体を見回し、ついでだからと最大値まで回復していた魔力をごっそりつぎ込んで壁系魔法の塊を追加設置してから、私は一度引っ込んだ。ここでログアウトしておかないと、ログイン時間が使い切れないからね。

 案の定「敵を与える」奇跡を願い、感謝祭の歌と踊りを奉じていた儀式場が、領域スキルを移して維持する為の儀式場に作り替えられていた。ので、旗槍をそこに設置して最大展開状態のまま領域スキルを移し、私は別の部屋に移動してログアウトである。

 いつもなら絶賛ログインして行動している時間にログアウトというのは妙な気がするが、時間がもったいないのですぐタイマーをかけて、外部掲示板を確認だ。他の事は全部終わらせているから。


「とはいえ、最新情報なんてある訳が無いからこうなるか」


 外部掲示板の今の話題? 通常空間の地獄、もとい、私と「第一候補」で実行した「敵を与える」奇跡を願った状態の戦闘模様。観測班は戦場全体が見れるようにいくつかの定点カメラを設置していたらしく、その動画が上がっているんだそうだ。

 もちろん残敵掃討まで含めるとたっぷり6時間あるから、リアルで見るのはなかなか大変なんだが、それでも見た人は結構いるらしい。映像で見ただけの人が、自称そこに参加していた人にいろいろ質問していた。

 ……ただ、積極的に答えている人ほど質問が増えるとボロが出ているから、ちゃんと参加した人はあんまり喋りたくないんだろうなぁ。まぁ仕方ないか。エルルですらあの状態だったんだ。


「一般召喚者プレイヤーなら心が折れても仕方ないし、ベテラン勢はこういう煽るような真似はしないからなぁ」


 しかし、映像と体験談だけで阿鼻叫喚になってるな。まぁ外から見る分には過激なアトラクションみたいなものなのかも知れないけど。私は当事者だが、歌って踊ってただけだからな。未だに動画も確認してない。

 ……なんか若干、心当たりのある容姿の相手に助けられたとか、お礼を言いたいので探しています、みたいな書き込みがあるんだが、たぶんここ(外部掲示板)で探しても見つからないぞ。


「ルドルはうちのメイン盾さんだからな。にしても、意外とサーニャやルディルも人助けをしてるのか」


 まぁ、乱戦だったからな。撤退や交代はスムーズに出来た方がいいし、壁や要塞が壊された時の移動は助け合いだから。瓦礫の転がる中を移動するのは大変だろう? しかもモンスターの群れと戦いながらの移動だ。

 全員で協力しないと、退避もままならない。そういう状況だったからな。私の場合は全部推測だけど。痕跡を見るだけでもすごかったからなぁ。

 ……今の、モンスターの群れが押し寄せる中でダンジョン探索をするのとどっちがマシだろうか? と思ったけど、たぶん戦闘力的には今の方がマシだな。何せあそこまで戦闘力を要求する事になったのは、時短の為だから。


「ま、余裕が出来た訳じゃないどころか、まだギリギリ間に合わないかもしれないって状況には変わりが無いんだけど」


 本来なら今日一杯でイベント期間が終わりだったんだから、完全に間に合って無いんだよな。

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