第2069話 67枚目:突入準備

 うん。まぁ。とりあえずあれだ。大陸規模の粉塵爆発が起こらないんならいいか。

 ちょっと、いや、だいぶ頭は痛いが、あの爆発音で何を一番警戒して血の気が引いたかって言えばその一点なのだから、そこが大丈夫なのであれば問題は無い。とりあえず今は。

 それに元は邪神由来だったとしても、そこに司令部が被せた「雨雲」が本当にただの水を降らせるだけのものな訳が無い。もちろん落雷を水伝いに広げれば爆発するかも知れないから、それ以外でだが。


『こちらカバーです。ちぃ姫さん、今大丈夫でしょうか?』

『大丈夫ですよ。さっきの爆発に肝を冷やしたのと、エルルとサーニャに強制離脱させられかけただけで』

『ははは。情報伝達が間に合ったようで何よりです』


 そうだけどそうじゃないんだよなぁ。司令部の思い切りが良すぎるって話なんだよなぁ。

 それはともかく。カバーさんから伝えられたのは、司令部による作戦変更だった。どうやら司令部はエリアの外周部分に無数の拠点を急ピッチで進めているらしい。そしてそれらの拠点を繋ぐ形で、エリア外周をぐるっと雨で囲んでしまうつもりのようだ。

 もちろん胞子が水に触れれば大量のモンスターになる。だが、逆に言えばただのモンスターの群れでしかない。そしてモンスターの群れであれば、召喚者プレイヤーは散々相手にしてきている。


『そして胞子を水によって食い止めている間に、ちぃ姫さんを始めとした一定以上の強度を持つ領域スキルを展開できる方を中心に突入班を編成、エリア中央を目指して頂き、可能ならそのままレイドボスとの戦闘に入ってほしい、との事です』

『……まぁ確かに、モンスターの群れなら慣れた物でしょうし、濡らしてしまえば胞子そのものは消えますが、レイドボスとの戦闘に参加できないという文句が出そうですね』

『多少は仕方がありませんし、元々どういう作戦であってもそういう声は上がっていたでしょう。そしてレイドボスが特殊行動として大量の胞子を吐き出す可能性が低くない以上、最低でも胞子が外洋に出て、他の大陸まで届く事だけは阻止しなければなりません』

『それはそうですね。そしてその雨も秩序に属する神に願う事で、邪神の信徒の出入りを制限するとかでしょうか?』

『それも含まれています』


 それもって事は他にもあるのか。私はちょっと思いつかないが。

 ともあれ、ようやく事態が動きそうだ。流石にちょっと手詰まりというか、間に合わない感じがしていたからな。ログイン時間は半分を切っているが、撃破しろとは言われていないし。

 少なくとも、道中にある冬虫夏草モデルの噴水みたいな奴を全部撃破して、本体までの道を作れば、まぁしばらくは大丈夫だろう。北国の大陸の時でも、一度しっかりと除雪すれば、後は何とかなったからな。


「今回も、一度積もり積もっているものを綺麗にして、元凶以外に胞子を撒き散らしている奴をごっそりと減らせば、対策装備で間に合うようになるでしょうし」

「……お嬢」

「突入班として動くように指示が来ました。外周はぐるっと雨を降らせて、水を壁にする事で塞ぐそうですよ」

「だがそれだと、あの筒がついた奴が1体でも抜けたらどうするんだ?」

召喚者プレイヤーの総力を挙げてでも抜けさせないんでしょう。特に海の方面は。それこそ、神に奇跡を願ってでも」


 その辺司令部に抜かりがあるとは思えない。ちょっと思いきりが良すぎる案件がぽつぽつ出てきているが、有能である事は変わらないから。

 そんな会話をしている間に、どうやら司令部から連絡が来たらしいベテラン勢の人が寄って来た。私を中心に突入するメンバーだろう。……そう言えば、領域スキルの形については聞いてないな?

 まぁ、突入するなら自分を中心とした球型に戻せばいいか。この壁のような形でも別にいいし、胞子を確実に消すならこっちの方がいいかも知れないが、ちょっと範囲が広すぎて筒の束みたいなやつを撃ち漏らすかも知れないからな。

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