第1656話 56枚目:新たな制限

 イベントは折り返して日曜日が終了したが、相変わらず世界各地で野良ダンジョンは出現するし、その攻略にはそれなりに時間がかかる。イベント限定の特殊モンスターを探す方法は確定しているので、何とか野良ダンジョンが手のつけようもないほど増える、って事は無いようだが。

 その調子なので、私が大規模に領域スキルを展開してモンスターにデバフを積み込んで沈め、大量に倒し続けるというのは変わらない。今はエルルもサーニャもいるので、吸収能力を開放する必要は無いけど。

 どうやらデバフを積み込む、というのは攻撃に該当するらしく、普通は逃げ回る特殊モンスターも、とりあえず一旦は私の方へ向かってくるようだ。そして向かって来たら、エルルかサーニャが狩ってくれる。


「それにしても、キリがないね? 見えてるんだから一掃できないかな」

「あれに外から攻撃が通らないのは散々巻き込んで分かってるだろ」

「出来たらやってるんですよね。それこそティフォン様なら全力で焼いてくれるでしょうに」

「お嬢も止めろ」


 気のせいかエルルの止める言葉に「始祖ならやりかねない」みたいなニュアンスがあった気もするが、それはともかく。

 私自身は旗槍を両手で立てて持って、領域スキルを展開してじっとしているだけだ。吸収能力は使っていないので、状態異常が積み込まれることも無い。耐性スキルにも変化はないし。

 だから掲示板を見ていた訳だが、どうやら最大ダンジョンレベルが25のオープン型ダンジョンへの挑戦者が出たらしい。少なくとも見た目に確認できる最大レベルは30の筈なので、その手前だな。


「レベル6で回転床と十字路の組み合わせ、レベル11で一段高い壁によるブロック分け、レベル16でブロック増加と来て、今度は何が来るやら……」


 オートマップは最初から使えないので、地図を消す系の罠はあんまり意味が無いんだよな。けどここで更にブロックを追加しても、難易度は上がるけど順当過ぎる気がする。

 フリアドの運営的に、そろそろひねりがある気がするんだよな……と思いながら掲示板を追いかけているが、とりあえず序盤は今までと変わらなかったようだ。まぁレベルが低い内は今までと変わらないか。

 流石に最大レベルが増えたダンジョンだって事で、ここは再出現まで放置して時間を稼ぐのではなく、すぐ再出現させて攻略するようだ。ギミックが増えているだろうし、それを確認しておきたいんだろう。


「どうした、お嬢」

「最大値が更に上の野良ダンジョン試練モドキの攻略が始まったんです」

「場所によってはだいぶ奥まで行ったんだな」

「そのようですね」


 出来るだけ広い空間を確保し、総合野良ダンジョン数を減らす為に出来るだけ探索が行われる。だから進捗としてはゆっくりだが、ここで焦ってもいい事は無い。

 それに、ゆっくりと言っても内部の広さからすれば十分に早い。そうこうしている間にクリアと再出現が繰り返され、ダンジョンレベル20がクリアされた。ここまでは既知だ。

 ボスモンスターへの特殊能力追加は最後の1回だけらしいので、普通に削り切って終わった。なるほど、人数が居たら吹き飛ばし系のアビリティを多用してボスモンスターをお手玉して行動を封じる、とかも出来るんだな。


「ん?」


 武器とステータスによっては串刺しで実質動けなくする、とかも出来るみたいだからなぁ……と思いながらボス戦の実況を眺め、それも終わって次の再出現に備えていると、掲示板の空気が変わった。

 どうやら現地で何か問題が発生したらしく、書き込みが止まったのだ。私と同じく他の場所から掲示板を見て、私と違って書き込んでいる召喚者プレイヤーは困惑しているようだ。

 確かに、司令部は問題があっても「問題があった」事は書き込むもんな。それが数秒とか数分ならまだ分からなくもないのだが、既に10分以上が経過している。それだけあれば、司令部なり最前線を張れるベテラン召喚者プレイヤーなら、少なくとも何が分からないか、ぐらいは分かると思うんだが……。


「……これは」


 そう思ったあたりで、現地からの書き込みがあった。スクリーンショットが張り付けられている。どうやらそれは、「導きのタブレット」のクエスト画面……まだレベルが残っているオープン型ダンジョンの、残り時間と再出現ボタンの表示された画面のようだ。

 ここのヒントに「次のダンジョンレベル」が表示されるのは固定らしく、そこは変わらない。のだが。


「お嬢?」

「……ちょっと厄介な事になったかもしれません」

「何があった?」


 モンスターを仕留めに行ってちょっと離れていたエルルだが、サーニャと交代で戻って来たらしい。私はそのエルルに、見ていた掲示板の画面から、張り付けられていたスクリーンショットを拡大してみせた。

 それを見たエルルは、ちょっと考えてから眉間にしわを寄せていた。うん。大体思うところは一緒だったらしい。

 スクリーンショットのメインとなっているのはヒントの部分で、そこに「次回ダンジョンレベル 21/25」と表示されているのはいいんだが……。


「確かにこれは、ちょっと厄介だな」

「ですよね」


 問題は、そこから表示された「今すぐに再出現させる」という選択肢だ。これ自体は私も見た事があるのだが、今回はその下に、文章が追加されていた。


『次回レベルからは内部で全ての加護と祝福が封印されます

 大神の加護保持者、あるいは『勇者』はスキルがランダムで最大10個封印されます』


 なんというか、露骨に対策を取って来たな……いや、対策するだろうけど。私もするだろうし。

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