第1642話 55枚目:次の変化

 もちろんエルルとサーニャを始めとしたうちの子には手作りチョコを作って手渡し、神様方にも神印を描いたチョコケーキと、チョコレート製の神像や箱庭を捧げた。『魔物商店街』の人達や『可愛いは正義』の人達の分も頑張った。

 去年は(主にティフォン様とエキドナ様の)お返しが大変な事になったが、今年はどうやら通常の捧げものと同じ扱いだったらしく、ボックス様以外からお返しのようなものは無かった。平和だ。

 なおボックス様からのお返しは、去年の保存ケースを拡張する魔法の巻物だった。これで今年貰った分も飾れる。本当に心底最高だわー。


「途中からいきなり勢いが落ちたが、何かあったのか?」

「あぁ……あの魔法の松明のレシピが景品に入っていましたから、それに気付かなかったか後回しにしていて、慌てて取りに行ったんでしょう」

「なるほど」


 ちなみに他には、贈り物を包めば受け取って貰えた時の好感度が上がりやすくなるラッピングセットとか、チョコレートに合うお茶やコーヒーのセットなんかがあった。

 あと、説明をよく見てある事に気付いて、アスレチックはほどほどのタイムでクリアした。何の事かというと、どうやら各アスレチックには時間と成功率で算出されるスコアがあり、これが1位だった人は「詳細なオペラグラス」が貰えるらしい。

 私はもう2つ持ってるからな。主にエルルとサーニャのお陰で。あれば助かるアイテムだけど、無いと詰んでしまうって訳でもないし。基本はダンジョン攻略だから、突入した人だけでも何とかなる。


「……なんですけど、ダメですか?」

「今予備武器しかないんだろ。ダメだ」

「せめて武器が直ってからにしてね、姫さん」


 という訳で、私は魔法の松明と、とても明るい普通の松明をせっせと作り続ける事になった。灯りの魔法のお札でもいいのでは? と思ったんだけど、設置がちょっと難しくなるんだそうだ。松明は松明スタンドっていうのがあるらしい。

 これたぶん今回のイベントには間に合わないな……と思いながら生産作業をしていたんだが、もちろん掲示板は開いている。そこに、動きがあった。

 どうやらダンジョンレベル11への突入者が出たらしく、その実況スレッドがいくつか立て続けに出来たのだ。ざっと眺めた感じ、自分の所属しているクランの「詳細なオペラグラス」を使っての探索組からあぶれてしまった召喚者プレイヤーが、小規模なクランへ傭兵としての出向みたいな事をしているっぽい。


「で、その小規模クランと臨時パーティを組んだところ、思った以上に相性が良くてさくさく進んだと」


 これはクランの移動も有り得るか? とか思いながら、その内の1つを作業用BGMのように開いておく。少なくとも、こうやって情報を公開している中では一番早いレベル11への突入だからか、流れがそれなりに早い。

 もちろん中から掲示板は使えないので、これは外から見ている人達の書き込みだ。「詳細なオペラグラス」を使っている人の言葉と動き、点々と設置される魔法の松明の灯りが実況風に書き込まれていく。

 最初はここまでと同様にさくさく進んでいたようなので、モンスターや罠はそこまで劇的に難易度が上がってるって訳ではないらしい。ただ探索が進んで迷路の様子が分かって来るにつれて、不穏な空気が漂い始めた。


「外から見ないと分からない、一段高い壁……?」


 それは灯りで照らされて「詳細なオペラグラス」で見える範囲が広がって来た、その端っこに引っかかるようにして見えたもののようだ。残念ながらその場所は行き止まりの先だったらしく、直接確認する事は出来なかったようだが。

 ただ、難易度が上がって大きな変化がある筈の場所で、モンスターも罠もそこまで変化が無い。という事は、迷路の構造か法則が変化している可能性が高い。そこに来てこの壁の発見なので、だいぶ掲示板がざわついている。

 それでも探索を進めないと何も分からない。実際探索としては順調なまま、更に大きくなった円盤部分の迷路も、半径の半分ぐらいまではほぼ真っ直ぐに探索を進めていき……


「……あー、やっぱり」


 そしてそこで、中心の方向へ向かう事が出来る道が、無くなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る