第1620話 54枚目:戦闘序盤

 イベントダンジョンの一番奥で待っていたのはやはりレイドボスだった訳だが、ちょっと一当てしてみただけで、その性質が思いきり厄介だという事はよく分かった。

 まず本体である巨大な柱、というか、その真ん中に展開して複雑に稼働している歯車の機構だが、これには直接攻撃が通らなかった。代わりに、攻撃属性ごとに違った斜めの柱、方杖って言うらしいな? あれの体力バーが削れたので、身代わりという名の盾になっているんだろう。

 そして部屋全体の床に格子模様を描いている蛍光色の光だが、これは壁がせり上がって来るガイドラインである事が分かった。見た目は一緒だが、せり上がって来る速さが3段階、そして速さに比例して耐久度が低い。なおかつ。


「まぁ予想通りでしたが、滅茶苦茶に硬いですねこれ!」


 1m四方の格子模様。その1マス分「に限らず」天井まで壁に囲まれると、中にいた召喚者プレイヤーや仲間の数だけその場に柱が出現する。レイドボス本体を小型化したような形のそれが増えると、壁のせり上がる速度と耐久度が上がり、かつ部屋全体へのデバフも強化されるようだ。

 なので現在、エルルとサーニャを含めて壁を壊せるメンバーは全員壁破壊の方に回っている。何せ範囲が広くても壁に囲まれたらアウトだからな。十分に広い部屋の中を走り回っている。

 それでも見落としからの柱追加は止め切れず、柱は壁より耐久度が高い上にデバフの発生源だ。結果、私の担当となった。


「壁や柱を壊せば足元の線の体力が減るので、限界はあると思うのですが……いえこれ柱を放置したら回復してますね?」


 という事が分かったりしたので、私は柱と壁の破壊に専念している。もちろん旗槍は灯りの奇跡の炎を宿した大戦槌型に変えて、だ。

 一方レイドボス本体の攻略だが、本体を攻撃すると、その攻撃属性によって違う方杖がダメージを肩代わりする。方杖は肩代わりする攻撃属性以外は通らない上にカウンターとしてモンスターを召喚するようだが、本体を攻撃するよりは削れ方が大きいようなので、まずは方杖の撃破にかかっているようだ。

 それが正規の攻略ルートだろうしな。もちろん本体への攻撃も続いている。効率が悪くてもダメージは入るんだから。何せ方杖は天井と床から生えて本体に繋がっている。つまりかなり密集している状態だから、隣のやつを巻き込んでモンスターが召喚されるんだ。


「ここで、攻撃範囲が狭いという一点でニードル系の魔法が大活躍するとは思いませんでしたが」


 連射も出来るからな、あれ。なので、これ以上何も無ければそろそろ魔法による攻撃は通るようになる筈だ。

 ちなみに蛍光色の格子模様だが、これへの直接攻撃は通らなかった。むしろモンスターが湧いてきたので、攻撃は通らないという扱いなんだろう。とりあえずその場は壁を壊すついでに薙ぎ払ったけど。

 流石に【調律領域】の供給能力を開放する程の余裕は無いが、それでも何とか、柱の追加がない状態なら自然回復力で耐えられている。もちろんレイドボス本体の体力が減って行動変化が発生したらまた話は変わって来るだろうが、とりあえず序盤の現在は順調だ。


「まぁ序盤ぐらいは順調でなければ困ります、けどっ!」


 ゴガッ! と、とりあえず追加の柱が無くなったところで壁破壊に参加する。やっぱり神の力以上に打撃属性である事が重要らしく、壁の数が増えつつあったからな。壁が無くなるか、破壊が完全に間に合うようになれば、エルルとサーニャも本体への攻撃に参加できるんだ。

 ガンゴンガン、と、動きながら届く範囲にある壁は全部壊していく。範囲が広くても囲まれたらアウトだ。一番外の壁が一ヵ所は見えてないと安心できない。っていうか、部屋全体が囲まれかけてたんじゃないのか。

 ここでふと思い出し、入口であった扉を振り返った。そういえばあれもモンスター的な挙動をしてたよな?


「……。やはり燃やしておくべきだったでしょうか」


 そして、さりげなくそっと閉まろうとしていた扉が、私が視線を向けた途端に素早く全開になったのが見えた。本当に油断も隙も無いな。

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