第1486話 49枚目:発見と情報交換

 距離があるといっても、障害物も無ければ方向に迷うことも無い。さくさくと移動できたので、自己バフをかけなおしていたのもあって、さして時間もターン消費もなく音源を見つけることが出来た。

 そこにいたのは予想通り、そこそこの人数の召喚者プレイヤーだ。種族も色々入り混じっているが、8割方は人間種族っぽい。ただ、少ない方の魔物種族召喚者プレイヤーの方がベテランらしく、全体の指揮を執っているようだった。

 ん? それを見つけて私が接触してないのかって? いやその、それがだな。


「……何故、こうも険悪な空気なのか」


 険悪な空気っていうか、言葉にいちいちすごい量のトゲが乗せられているというか。聞いてるだけでこっちの顔も引き攣ってきそうな会話をしているのは、どうやら新人よりの召喚者プレイヤーらしい。それをベテラン数名が何とか宥めている、という状態のようだ。

 しかもその原因が、召喚者プレイヤーで一番強いのは誰かっていうものらしい。公式マスコットの話が廃人召喚者プレイヤー数名にも行って人数が増えたんだが、その中で論争してるっぽいんだよなぁ。

 もちろん、私もその中に入っている。ある意味渦中の人間だ。竜だけど。なので、行儀が悪いのは分かった上で、少し先の角で天井付近に浮いたまま会話を聞いている。


「声を聞く限り、ベテランが3か4名、論争中の新人が8か9名。足音や気配と、ベテランからの指示への返事からして、あと何名か、って感じでしょうか。恐らく、本来所属しているクランやパーティもばらばらなんでしょう」


 あのマップリセット及び強制退去の時の引きずり込みは、ほぼ完全なランダムだと見ていい感じだな。それと出てくる単語がゲーム視点に偏ってるから、住民の仲間は引き込まれていないようだ。とりあえずこの集団にはいないらしい。

 と、喋りながら水の流れてくる方向に進んでいた集団がいったん止まった。と思うと、足音が1人分だけ近寄って来る。これはもしかしなくても、私……というか、進行方向に誰かいる事に気が付いたな。

 ここで動くと話がややこしくなってしまうので、大人しく到着を待つ。しばらくしてそっと角から顔を覗かせたのは、何度か最前線で顔を見た覚えのある人だった。確か猛禽系の魔物種族の人だな。今は【人化】してるけど。


「……っ!?」

「しー、です。しー。会話は聞いています」

「……まぁ、隠しては無かったけど。マッジかぁ……いや助かる。すげー助かる。助かるのは間違いないんだが、うん……!」

「まぁ、そうですね……。正直、聞こえていたから顔を出さずにここで様子を窺っていたんですし」

「気遣い感謝だな……」


 今の私は鎧部分の少ないドレス鎧に長いヴェールを着けた全身銀色装備だ。手には旗部分を柄に巻き付けた旗槍を持っている。だから旗槍を膝の前に出して横向きに持って、膝を折り曲げて足裏を壁につけている。壁に体育座り、もしくは空中で正座みたいな姿勢だ。

 流石に私がいるとは思ってなかったらしく、ぎょっとしたその人に、右手で、しー、とジェスチャーをすると、どうやらすぐ立て直してくれたようだ。そのまますぐ頭を抱えてしまったけど。まぁ、気持ちは分かる。


「ん? てことは、この水はもしかしなくても」

「エキドナ様にも湧き水の奇跡を授けて頂けますので」

「あー、なーる。おっけ、それが分かっただけ儲けもんだ。てことはこの先の地図持ってるのか」

「交換します?」

「助かる」


 という訳で、そのまま小声で情報交換だ。白紙のままの「白紙の地図」がまだあって良かったな。お互いに。

 ついでに聞いたところ、どうやら彼らが捜した範囲でも特に何も出てこなかったし、何も見つからなかったらしい。そして制限時間が尽きるとどうなるかというと、その時点で最初の地点に戻されるそうだ。

 そして他の人と合流すると、その時点で残っている時間ターンが全員での合算になるらしい。ただし時間ターン消費は各自で消費する事になるので、あまり変わりはないようだ。


「まぁ、スキルを持ってると時間が短くてすむみたいだから、得意な奴に任せて連携すれば多少の節約にはなる。あと一回集団に合流したら、その集団にいる奴の初期位置の内現在位置から一番近いとこに死に戻るみたいだな」

「デスペナ付きですか?」

「デスペナは無いっぽいが、地図は消える。まぁ集団の中で預け合ってれば問題ないな。……いや、問題あるのか」

「私の方なら、そもそものステータスが高いので、どの行動でも大して時間は消費しないんですよね」

「さっすが……」


 とりあえず分かっているのはこんな感じらしい。いよいよ脱出の手段がないな。こうなると、外側からの攻略でマップリセットが起こるまで出来る事って無いんじゃないか?

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