第1484話 49枚目:攻略一例

 メールを送る事と受け取る事は出来ないが、着信履歴を見る事は出来る。なので自分宛てにメモとしてメールを送っておけば、その内容は確認できる訳だ。スピンさんがやってたのを真似させてもらっている。

 私のログイン時間は「第一候補」とずれているし、あちらも忙しいのであまり頻繁に連絡を取る訳にはいかない。という事で、儀式関係の事はちょくちょくメールにメモをしておいたのだ。

 それを引っ張り出して確認する。えーと、神器の触媒もしくは増幅器としての扱い方……あった。


「……。大丈夫そうですね。目的がちょっと違いますけど」


 もちろん神器は本来の用途で用いるのが一番なのだが、威力が高すぎたり使い切りだったりする場合は、本来の用途で使う前に、別の用途で使う事もそれなりにあるらしい。

 どこまで許されるかは本人の信仰値や相性、神の性格などによるとの事なので、まぁ大丈夫だろう。そもそも今回のこれだって、目的としては早期脱出及び同じく引き込まれた誰かの救出になるんだし。

 という事で用意するのは、ここまでも使ってきた旗槍、【結晶生成】によるドレスアップ、【調律領域】と【王権領域】をぐっと縮めて部屋の中に円形に展開して作る簡易の儀式場と、


「――[地にありて水を司る、大いなる我らが母よ]」


 ドがつく危険物である「極小の水源核」だ。

 元々が「莫大な水を内部に秘める」と書いてあるし、それがそのまま水源地になるって事は、たぶんそこそこ大きな湖かそれ以上の量があるのだろう。

 そしてこれをくれたエキドナ様は竜と蛇に属する種族の始祖神であり、洞窟に棲むという逸話及びその洞窟が川の上流という情報から、フリアド的解釈も含むと土属性と水属性を持っている。

 で。水属性を司る始祖神、という事は、当然ながら……湧き水の奇跡ぐらいは、授けて頂ける訳でな?


「[渇きを潤し痛みを癒し

 禍を流し清めて平らげる

 水の始まりから流れる一筋を

 ここに与え給え]!」


 なおここでポイントなのは「禍を流し清め」の部分。モンスターはこの世界からすれば絶対にどうしても敵だ。だから大変と穏やかで、溢れる母性を持つとはいえ……蛇と竜の始祖、数多の怪物と呼ばれた存在の母なのだから。

 川だって恵みをもたらすだけではなく。時に氾濫を起こし、周囲一帯を水で押し流して泥の下に沈めるように。――決して、優しいだけではない。


「まぁ、私以外に誰かがいれば、絶対に止められているんでしょうけども……っと!?」


 しゃんっ、と涼やかな音と共に身にまとっていた青い宝石が砕け散る。右手でしっかり旗槍を持って、「極小の水源核」は左手に乗せるようにして持っていたのだが、そこから、予定通りに予想以上の水が溢れ出した。

 というか、今の私がしっかり構えた状態で、反動で転びそうになるって相当だぞ。いやそれぐらいの水量は出てるけど。両手が塞がってるから地図は見れないんだよな。だから、この水で探索済みになるかどうかも分からない。

 とりあえず部屋が水没していく感じは無いので、溺れる心配はなさそうだ。念の為足元には氷と土属性の壁系魔法を小さく発動して、足場にしておいたけど。


「流石に熱の方だと上手く広がるか分かりませんでしたし、溶岩や熱湯だと周辺被害が大変な事になりますからね。この場所ではなく、この場所にいるかもしれない他の人がという意味で」


 それに、いつまで残るか分からないからな。ログイン制限は相変わらずあるんだから、どこかで中断して休まないといけない。その時に周りが熱湯か溶岩で満たされてたら、休むどころじゃないしな。

 それに、その先を探索する必要があるかも知れない。【飛行】を上手く調節すれば問題は無いかも知れないが、それにしたって絶対に熱いし、全面がダメージゾーンになるのは流石にちょっと……。

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