第1466話 49枚目:イベント開始

 準備をしながらもログイン時間を抑え、7月中に宿題を片付けて8月いっぱいをゲームにつぎ込む自由を獲得した。ふっ、準備を本気でするというのはリアルの都合をつけるという事も含まれるのだ。ただし課金は除く。アルバイト? 知らないな……。

 フリアド内部は全世界的に厳戒態勢だ。もちろん竜族も含めて可能な限りの集落に旗が立てられ、防衛力に不安のある小さな村等の住民は、一時的に大きな町に避難して貰ったりしている。

 完全に大災害に対する備えなんだよな。住民の反応は様々だが、特に古代の状態そのままだった住民、南北の大陸で封印状態だった人達と古代竜族の人達、あと北国の大陸の渡鯨族の人達なんかは、備えが出来るだけマシ、というスタンスらしいが。


「比較対象が、まぎれもなく歴史を変えた世界規模スタンピートですからね……」


 正直、犠牲者の数なんて考えたくも無いだろう。というか、正確な被害確認は不可能だ。時間が経ちすぎているというのもあるが、それ以前に、実質不意打ちだったから大混乱していた上に、被害が多すぎてカウント出来ない。

 それと比べれば、まぁ、マシだろう。来るのが分かっていて、防御の手段も行き渡り、解決する為の存在もいるんだから。しっかし、大神の加護っていうのは強いなぁ。

 で、そんな事を思っている現在は、7月31日の日付変更線直前だ。今日は私もこのまま、日付変更線直後から参戦する。何せここが一番大変だからね。……と言っても、リアル1時間ぐらいだが。


「なんだお嬢。緊張してるのか」

「まぁ、してますね」

「……」

「エルル? 流石にそこまで予想外な顔をされると私も思うところがありますよ?」


 こら。顔を逸らすな。私を何だと思ってるんだ。

 という会話はともかく、現在位置は最初の大陸の竜都、の周りにある底なしダンジョン、を囲むように建てられた防衛拠点の1つだ。ダンジョンから溢れ出てくるモンスターを食い止める防波堤でもある。

 最初の100階クリア者が出て以降はモンスターも出てこなくなっていたが、このエンドコンテンツ疑惑があるダンジョンに挑む召喚者プレイヤーは一定数いた。その為、一番近くの拠点として運用されていたらしい。

 まぁ今は何か変化があるかも知れないって事で、全員引き上げてるんだけどな。空間の歪みを介して干渉してきて、その瞬間強制退場もしくは全域即死とかがあってもおかしくないから。


「……来ましたか」

「そうだな」


 と、思っている間に日付が変わった。同時に、空気が変わる。重いというか気持ち悪いというか、変な感じだ。まだ領域スキルは展開していないが、恐らく、あの「モンスターの『王』」からも手を離されて暴走している、生物のような亜空間の干渉だろう。

 わいわいと、緊張と高揚が混ざり合って賑やかだった空気が一気に緊迫していく。私がいつもと違って参戦しているように、今までより日付変更線を待って参戦予定の召喚者プレイヤーは多いようだ。まぁ、あのイベントのお知らせを見ればそうもなるか。


「大神の啓示も来ましたね。確認します」


 空気が変化してうねるような中でメニューを開いてみると、イベントページのタブが増えていた。周りの召喚者プレイヤーも、主にリーダー相当の人がメニューを開いていたから、同じように確認しているんだろう。

 さて、イベントが始まってシームレスでメニューに追加された、今回のイベントページに何があったかと言うと。


「…………こう来ますか」


 そこにあったのは、北国の大陸における8月イベントに近い、各項目とそれに応じて変化するのだろうバーの並びだった。

 違うのは、その中に最初から満タンになっているバーがあるって事だろうか。つまりこれは、防衛対象に当たるのだろう。

 ――そのバーの対象になっている項目の名前は、「通常空間占有率」。つまり。


「あちらはこれまでになく、正しく「侵略」してくるって事ですね。信仰に近いものがあるという事ですし、モンスターの出現ポイントを始めとした「あちらの神殿」を立てる動きをするんでしょう」

「神殿とかも狙われそうだな。乗っ取られたら大打撃どころじゃないぞ」


 いやー、本当に、いよいよ話が大きくなってきたな。

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