第1449話 47枚目:進化待機開始

 サーニャの場合は昼なので、頑張って夜のルーチンという名の日常を出来る限り素早く片付けてログインだ。フリアド世界の夜明けは、日付が変わってからリアル時間で大体1時間半から2時間だ。季節によって若干変動するけど。

 極夜、「太陽が昇らない昼」って事で本来の日の出の時間は大幅に遅れている。というか、日の出は見れない。それでもエルルとサーニャは昼の始まりというか朝(と、夜の始まりこと夕方)は大体分かるらしい。特殊種族だけはある。

 仕掛けてくるとしたらサーニャの進化中だろうし、その進化が始まるのはその、景色的には全く分からないが昼が始まったタイミングだから、そこには何とか間に合わせたかった形だ。……実際はちょっと遅刻した。


「ま、いつもは終わりがギリギリになるように調節してますからね……」


 待機場所というかログアウト地点は、黒曜石の島の端っこにテントを設置した。もちろんリスポーン地点はとても遠いので、万が一にも落とされると戻ってくるのはかなり厳しい。

 と、いう場所。忌憚なく言うのであれば、ド辺境のこの場所で。


「かなり大規模な戦闘音が聞こえるのはおかしい筈なんですけどね。絶対来るだろうと思っていたのは確かなんですが!」


 本当にしつこいというかポイントは押さえているというか。もしエルルに続いてサーニャまで進化先に『勇者』を選んだら大変な事にはなるだろうしその可能性は結構高いっていうのはそうなんだけど!

 これに関しては運営も積極的に止めにかかってない気がするから余計に厄介なんだよな。エルルを見てたら分かるけど、ちょっとオーバーキルな気はしてるから。ゲームバランスどこいった状態だろうし。

 まぁでも。


「それはそれこれはこれ。いくら運営大神であろうとも、正当な手順を踏んで行われる選択を、それも今後一生がかかったものを邪魔させるつもりは、ありません!」


 クランメンバー専用掲示板の内、クランの構造上私と私の下にいる召喚者プレイヤーだけが見れる設定の鍵スレッドに書き込まれた現状をざっと確認。

 ありえない筈の「辺境への野良ダンジョン出現」と「異常に速いペースでのスタンピートの発生」が起こっているという書き込みを見た時点で、旗槍を掲げて領域スキルを二重展開した。

 もちろん、黒曜石の島自体は範囲から避けている。上を塞ぐのもダメな気がしたので、ドーナツ型に展開だ。私のいる、島の縁だけはどうしても範囲に入ってしまうが。


「お嬢、起きたか」

「起きました。もはやあからさま過ぎて言葉もありませんが、対処は出来ていますか?」

「とりあえず今のところは大丈夫だ。お嬢が力場を展開したから、今から大元の捜索だな」

「どう見ても人為的というか、例によって「モンスターの『王』」と接触した邪神の信徒の手口ですからね」

「本当にどこで接触してるんだろうな……?」

「さぁ?」


 分かってたらとっくに対処してるんだよな。ルートなり手段なりを潰すって方向で。ここまで安定して接触できてるって事は、方法論自体は確立してあるんだろうし。

 流石に邪神のお告げって事はないと思うんだけどなー。一応あれでもこっちの世界の神ではあるし。裏切りどころじゃないから、そんな分かりやすい事をやっていたら袋叩きにされているだろう。

 じゃあどうやって、は、思いつかないんだが。ほんと何をどうやってるんだ。絶対に正規ルートではないって事しか分からない。


「まぁそれが読み切れるほど、あのゲテモノピエロの思考をトレースしたくはありませんが」

「お嬢?」

「いえ何でも。大元の調査をするなら、のろいと「モンスターの『王』」の影響にも十分注意して下さい」

「ちゃんと全員に厳重注意済みだ。装備とかで出来る限りの対策もしてる」


 なら大丈夫かな。

 ……何が問題かって言えば、まぁまずこれで終わらないって事なんだけど。

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