第1356話 42枚目:真贋判定
「うわ」
『む、「第三候補」であるか』
『なかなかな第一声であるな』
「同時に喋らないでくださいよ、ややこしい」
本神殿の祭壇の間へと移動すると、壁際に設置された机の上に2体の「第一候補」ぬいぐるみが並べられていた。もとい、自身のデフォルメぬいぐるみに「乗った」状態の「第一候補」が並んでいた。
周りの
問題なのは、増えた理由が全く分からないって事だ。私の旗槍も加わって、“採録にして承継”の神の神殿における力場的防御は万全だった筈。にもかかわらず全く想定外の事が起こった、というのは、大変宜しくない。
「一応聞きますが、偽物の自覚があるのはどっちですか?」
『聞き方が「第三候補」であるなー。我は本物である』
『どちらが本物か、ではなく、偽物か、であるかー。我が本物である』
「まぁだろうと思いましたけど」
どっちも認識は本物、と。まぁでなきゃここまでややこしい事にはなってないか。一応私も【鑑定☆☆】を使ってみたが、結果は一緒だった。装備欄にぬいぐるみが表示されているところまで変わらない。
しかしどうしたもんか。見分けがつかないまま儀式をする訳にはいかないし、何よりだな。
「こういう場合、「どっちも偽物」って可能性がありますからね……」
「それ、どうしようもないんじゃないの姫さん」
「本物の捜索もしなければいけませんからね。更に大変な事になります」
『それを仮にも本人達の前で言うであるか……』
『むしろ「第三候補」の場合その可能性が最も高いと思っているであろう』
「最悪の最悪を考えるようにしているだけです」
とりあえずそこから改めて話を聞いてみると、「第一候補」がログインしたのは私の内部時間4時間前。“採録にして承継”の神を目覚めさせる儀式を準備も含めて2時間半かけて行い、儀式が終わると2人になっていた、という事らしい。
儀式そのものは成功した……と思われるのだが、そこから高位神官の人達が神に呼びかけてみても応答は無し。眷属さん達に聞いてみても「たぶん起きてる……と思う」とはっきりしない。
そして2人になった「第一候補」の見分けだが、これは眷属さん達でもダメだったようだ。確認はしただろうなとは思っていたが、うーん。
「
「両方同時に応答する事は出来なかったんですか?」
「はい。片方が応答するともう片方はコールが止まったようです。なおかつ同時に応答しようとすると、その時点で強制切断になるらしく」
と、検証結果を語ってくれたパストダウンさん。それぞれ別室に分けて本人確認用の質問や、フェイクを混ぜた確認を取ったりしたのだが、それも全問正解だったそうだ。だから少なくとも、記憶については本人のもので間違いないとの事。
クランメンバー専用掲示板へのアクセスも問題なくできたそうで、結論として、おおよそできる確認方法は一通り試してなお分かっていない、という事になるだろう。
まぁ実質見分けるのは不可能に近いって事だな。
「
「時間的ロスが大きいので、まだ試してもらっていません」
最終手段はログアウトして現実で連絡を取ってもらう事なのだが、一度ログアウトするとリアル30分、内部時間2時間のログイン制限がある。これが問題だ。今このタイミングで2時間も待ってる暇はない。
「まぁそれ(ログアウト)は最終手段として……とりあえず少なくとも悪属性ではないようですし、比較的真っ当な部分の神の力によるものでしょうから、問題ないのでは?」
『いきなり問題をぶん投げたであるな……』
『流石にそれはどうかと思うであるぞ「第三候補」』
とはいえ、だ。
少なくとも記憶は本人のもので、こうやって会話していてもその人格も恐らく本人のものか、本人を限りなく忠実にトレースしたものだ。となれば、どちらかが偽物、あるいはどちらも偽物であっても、実働としては問題が無い。
何せ一番困るのは、邪神の力や影響、あるいは「モンスターの『王』」の影響が混ざり込む事だからな。とりあえず、それはない。何故なら。
「だってここまで会話して確認して、その間ずっと至近距離に私がいたんですよ? それでノーダメージどころか調子が良くなっているなら、少なくとも現在の状態で真っ当な神以外の影響はないでしょう」
種族特性だけじゃなく、こっそり【調律領域】も展開していたからな。もちろんここに来るまでの間に展開の許可はとっている。
『まぁそれは確かにそうとも言えるであるが』
『全く同じ姿の他人がいるというのは落ち着かぬであるな』
「じゃあ別室で作業してください。「第一候補」が指示を出して判断する案件は山ほどあるでしょう。実質手が増えたようなものですし、問題が片付くのは早ければ早い程良い事ですよ」
『「第三候補」であるなー』
『確かに、それもそうであるか』
なお、私はログイン後入り口前に移動の予定だった。のだが、この分だと本神殿の中で生産作業をしながら領域スキルを展開する事になりそうだな。
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