第1351話 42枚目:じりじり進行

 まぁでも出来る範囲からやっていこう、という事で、街中央の本神殿上空が綺麗になってからは、切り出す大きさこそ加減しているものの私の領域スキルの上に火属性の壁系魔法を設置して、落ちてくるスライムを焼くことになった。

 こちらで良かったのは、一回設置してしまえば消えるまで意識しなくても勝手に焼けるという事と、全部焼けるようになってからは消えた壁を再設置するだけでいいって事だ。

 ……ついでにしっかりしている観測班はスライムの大きさと、蒸発させるのに必要な壁系魔法の数及び威力の相関を割り出して、他の場所でもやれるように召喚者プレイヤーのチームを結成していたようだが。


「まぁ、「第二候補」が退屈していないならいいです」


 なので現在、街中央の本神殿上空と、街の入り口前広場上空以外でも、主に防衛の為に召喚者プレイヤーの小集団が移動していった先を中心として、あちこちで空を塞ぐ分厚い雲に穴が開いていた。

 ちなみに雲への直接攻撃も試されていたが、「第二候補」の場合と何が違うのか、そちらはダメージらしいダメージにならなかったらしい。


「スライム相手だとするなら、切り離さないとダメなんだと思うぞ」

「ただし雲の形を取っている現在、確実に切り離すには相当な技量か切れ味か、それこそ火力が必要だと」

「たぶんな。実際何で切り離せてるのかは正直分からん。斬った傷が再生しなくなるとかいう特殊能力でもあるなら別だが」


 不死殺しの武器にそんな特殊能力があった気がするな。しかしエルルでも分からないとは、いよいよ「第二候補」のリアル超人感が増してくるんだけど。

 それでも、雲を減らすことが出来るのであればそれはつまり雨が降って来る範囲が減るって事だ。つまりダメージゾーンの範囲が狭くなって動きやすくなる。具体的には街内部の探索が再開できる。

 そろそろ私のログイン制限も見えてるし、恐らく先にログインしている「第一候補」はいい加減残り時間が危ない筈だ。まぁあちらは立地が立地だから、本人がログアウトしていて寝ていても、力場の維持は出来るんだろうけど。


「次眠ったら、最低丸1日は起きれませんからね、私」

「そうか、そっちの都合もあったな。……なるほど、だから余計にこの入り口前の安全を確保しに動いてるのか」

「そういう事です。種族特性は寝ていても発動しますが、領域スキルの重ね掛けと、周りの人の回復は無理ですからね」


 それに安全なログアウトの為には、本神殿へと移動する必要があるだろう。つまりこの入り口前に残る訳にはいかないって事だ。だから地下も含めた球状に領域スキルを展開しているんだし。

 入り口を塞がれたり、あるいは実質不可避となるトラップを仕掛けられたりしたら最悪詰むからな。だから私が入り口周辺の安全を確保したのが伝わった時点で、一斉にベテラン召喚者プレイヤー達が突入してきたんだし。


「それに入り口を確保しておかないと、外とのやり取りに支障が出るというのも証明されてしまいましたし。実質孤立無援になってしまう可能性が高い以上、そこに至るまでの時間は少しでも稼いでおかなければ」

「……お嬢。一応聞いておくが、異世界からの侵略者だけでもそこまで厄介な事になったと思うか?」

「いえ全く。少なくとも、入り口の安全確保が必須になる事と、召喚者プレイヤー同士の連絡に支障が出る事は無かったでしょうね。後は召喚者プレイヤー同士の疑心暗鬼になりかねないような状態にもなっていないと思います」

「だよなぁ……」


 実際カジノ街こと“偶然にして運命”の神の方ではそんな事にならなかったからな。思えば多少のちょっかいはあったものの、そういう意味での妨害はほぼ無かった。

 だから『バッドエンド』という組織としての力は“採録にして承継”の神がいる空間異常の方へつぎ込んでいたんだろう。前回で一応の成果が無くも無い可能性がある以上、今回はどうだか分からないが。


「本当に、邪神を自ら信仰するやつっていうのは厄介だ」

「えぇ、全くです」


 本当にな。はやく本体を捕まえて法の下に引きずり出してBANしたいもんだ。

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