第1350話 42枚目:ダメージと懸念

 ちょっと相談して、街中央の本神殿の上空を「第二候補」が切り抜き、「第一候補」が力場を強化して受け止め、私が遠距離から超大火力で焼くことになった。

 クールタイムの関係で少しずつではあったが、分厚い雲の向こうには普通に空が広がっていたし、雲が無くなればその範囲は雨が降らなくなる。閉塞感も随分マシになった感じがあるな。

 なお焼くのに使っているのはお馴染み炎の巨大な剣の魔法だ。下の建物に当てないようによく狙わなきゃいけないのはちょっと大変だな。


「そもそも街の中で使う魔法じゃないんだからな?」

「他のだと瞬間攻撃力が足りないんですよね」


 ちなみに、このタイミングで私は【響鳴】スキル、もっと言えば自分の種族特性を含む範囲バフの威力を思い知っていた。いやー、確かにこれは、普段から使ってたら感覚がおかしくなるな。

 加減が要らないと見てか「第二候補」がより大きく雲を切り抜くようになったが、問題なく焼き尽くせているし。【調律領域】は基準が私自身だから固定割合上昇しかつかないが、【王権領域】と種族特性だけで相当にぶっ壊れだ。


「それしても、だいぶ空が見えてきましたね」

「そうだな。といってもまだ雨は降っているし、雲自体も穴が開いた部分を埋めようと動いてるみたいだが」

「動いているから「第一候補」が展開する力場の上に落とせるとも言いますけどね」


 そういう感じだから、雲を切り抜いてスライムにして落とせた範囲は、全体からすれば少ないと言える。ここで削り切れるものではないとは思うんだが、やっぱり全域がダメージゾーンになるのは厄介だな。

 とはいえ、流石に下にセーフティーネットならぬ防御可能な力場が無い状態で雲を切り抜いて、蒸発が間に合わなければ出る被害は今の比じゃない。あの炎の剣は仕様上、真上には撃てないし。

 かといって、【並列詠唱】を使って床と言うか、スライムを受け止められそうな壁系魔法もしくは封印魔法を設置するのもちょっと難しいだろう。何せ相手は“溶”かすの名の通り、強力な溶解能力を持っているのだから。


「当然ながら、私も「第一候補」も今の場所を動く訳にはいきませんからね。火属性や風属性の壁系魔法を設置しておいて、その上を「第二候補」に切り抜いてもらう、というのも火力が不安ですし……」

「というか、あの雲は結局何なんだ? 形が違うだけのスライムなんだったら、どこかにある核を狙わないとどうにもならないと思うんだが」

「それは今「第一候補」が探している筈ですね。この閉じた空間は街の周囲も多少は含んでいますけど、雲はその端まで続いてどこかへ繋がっている様子はないみたいですし」


 だから今もこの近くにいる召喚者プレイヤーは私の領域スキルの範囲内に集まっているし、恐らく本神殿の方も「第一候補」の領域スキルの範囲内に召喚者プレイヤーが集まっている筈だ。

 街のあちこちにギミックの防衛や起動の為に移動していった召喚者プレイヤー達も屋根の下に避難する事を余儀なくされているし、本棚と一体化した建物が溶けていないのは、この街が休眠中とはいえ、概念の一部を司る強力な神の聖地ホームだからである。

 つまりそれ以外、進めていた街内部の探索は、実質ストップしていると言っていい。この時点で邪魔には違いないのだが、それ以上に。


召喚者特典大神の加護によるやり取りを盗み聞きされている可能性がある以上、この中を動き回って召喚者プレイヤーの小集団を各個撃破されるのが一番困りますからね。何ならそこから成り代わられでもしたら、一番大事なところで連携がずたずたにされかねません」

「……そう言えば、そういう案件もあったな。召喚者の「素材を奪う」方法があるっていう……」

「まぁ入れ替わっていても、恐らく重ね掛けされた領域スキルまでは誤魔化せも耐えられもしないと思うんですけど」


 のろいという手札と合わせて、そういう危険性もあるからな。本当に厄介な方向の手札を充実させていくもんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る