第1348話 42枚目:参戦と勘

 モンスターは元々ほぼ対応できていたし、数が増えた程度で苦戦はしないレベルの召喚者プレイヤーが前に立っている。普段なら攻撃するだけで武器の耐久度をごっそり削る敵とか厄介どころではないのだが、今は私が魔力を供給する事で無限回復状態になっているから、魔法で仕留めれば良い話だ。

 司令部によって更新される攻略用スレッド、ではなく、クランメンバー専用掲示板を見る限り、他の防衛拠点というか、ギミックや仕掛けなんかの防衛に向かったチームも無事防衛態勢を維持できているらしい。


「ほー。触れられぬ雨とは、また厄介な事になっておるの」

「おや「第二候補」。忘れ物はないでしょうね?」

「何故皆揃いも揃って同じことを聞くんじゃ。流石にこの大一番で忘れんわい」


 そしてこのタイミングで「第二候補」の参戦だ。何故と言われても、皆に同じことを聞かれるって時点で分かるだろ、戦闘狂。

 相手と環境が物理攻撃では厳しくなってきたから後ろに下がり、装備の手入れをする事に専念していたルージュが「第二候補」のベルトに下がっている刀と挨拶をしている。……あぁ、あの柄の根元、頭だっけ? そこに飾りが追加されてると思ったら、あれがたぶん【結束】つきの装備なんだな。


「しかしもしかせんでも、タイミングを誤ったかのう……」

「今絶賛仕掛けられているところなんですけどね。相性を言うなら、それこそ“溶”かすという「モンスターの『王』」の性質がダメでしょうに」

「触れれば武器が痛むというのはどうにでもなるわい。要は水の上を歩くのと同じで、影響が出る前に振り切ってしまえば良いんじゃからな」

「また無茶苦茶言ってますね。ステータス補正と種族補正があっても出来る人いないでしょうそれ」

「出来んなら修行が足らんだけじゃろう」


 本当に無茶苦茶を言う。まぁ言うからには、少なくとも本人は出来るんだろうけど。時々思うが、「第二候補」も何気にリアルスペックがおかしいな?

 『武道』に所属している召喚者プレイヤーも一緒に来ただけあって、結構な大所帯だ。元々入り口前には大きな広場があって、私の領域スキルの影響で安全地帯になっているのもあり、かなり賑やかな事になっている。

 しかし、確か元は更生させられた不良とかチンピラだった筈の召喚者プレイヤーがほとんどだったと思うんだが、まともというか、武術を扱う人っぽくなってる気がするな。


「ところで「第三候補」」

「何ですか「第二候補」」

「ちょっとここの力場を切っても構わんかの?」

「ダメです。安全地帯をぶっ壊して世間体的に袋叩きにされますよ」


 いきなり何を言い出すんだこの戦闘狂は。


「違うわい。正しくはこの力場ではなく、その上の雲じゃよ。その途中にあるから斬れてしまうじゃろ?」

「外に出てからやる分には自由ですよ」

「うーむ。……流石に触れると体が溶ける雨の中では、ちと集中できなさそうじゃの」

「集中以前に体力が削り切られると思うんですが。あと「モンスターの『王』」の力の塊みたいなものですから、何が起こるか分かりませんし。私、流石に嫌ですよ? 「モンスターの『王』」の傀儡になったあなたと戦うのは。戦力的な意味で」

「おう、容赦なく言い切りおったわ」


 本当に何を言い出すんだこの戦闘狂は。(2回目)

 ツッコミが追いつかない。さてはのびのび放置するのが基本の「第一候補」と、補佐に特化してどう動いてもフォローできる「第五候補」で3人セットとして行動する時間が長かったから、その辺フリーダムさが増してるのか?

 ……けどまぁ、戦闘狂だけあってその勘働きは確かなものだ。という事は。


「一応確認しますが、「第二候補」としてはあの雲を斬りたい訳ですね?」

「そうじゃの。あれはあるだけで良くない類じゃろう」

「雨に当たらず集中できるのなら、斬るだけは斬れるんですね?」

「気配からして、まぁ斬れるじゃろうの。魔力という便利なものもある事じゃし」


 手を出して何か悪い方向に転がる、という可能性が無い訳ではないが、アクションを起こす事で良くない事が起こるのなら、流石にここまで極端な事は言わない筈だしなー。


「……分かりました。領域の外に傘となる防御を張りますので、そこからよろしくお願いします。建物の上なら湧き続けるモンスターに邪魔されることも無いでしょう」

「ほ、それは助かるのう」


 具体的な場所はカバーさんに確認してもらって、案内はフラップさんにお願いだ。私の展開する領域スキルの範囲はかなりのものだが、展開範囲が地下を含めた球状である事と、この街にはぽつぽつと背の高い建物がある事を考えると、一応何とか目視で狙いをつけられるだろう。


「……お嬢、いいのか」

「こういう時のあぁいう勘っていうのは、意外な程当たりますからね……」


 私の、嫌な事に限っては勘が当たるのと似たようなもんだろう。今までも、戦闘に関する事に限っては「第二候補」が勘を外したのを見たことが無いし。

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