第1349話 42枚目:想定外の一撃

 で。


「ほんとに空を割りやがりましたよあの戦闘狂……」

「お嬢、口調」


 ズバァ!! と、空に立ち込める分厚い雲に、横一線に入った切れ目を見ての正直な感想である。もちろん諸共斬られた私の防御魔法は既に張り直しているが、ちょっと引き攣った声で呟くぐらいは許してほしい。

 どうなってんだあの(見た目&口調)爺さん……と思ったが、どうやら「第二候補」的には満足いかなかったのか、そこから続けざまに何度も空が切り裂かれた。現実逃避したい。ゲームだけど。

 もちろんそのたびに私の防御魔法も斬られている訳だが、これもちょっとモヤるんだよなー。あっさり斬られてちょっと悔しいぞ。あんまり強度があってもあれだろうって事で、空間属性じゃなくて無属性の魔力の壁を薄めに設置してはいるんだけど。


「……確かに、もうあっちが『勇者』でいいんじゃないかとは思ったが」

「本当にそうなったらいよいよ手が付けられませんし、戦闘狂が『勇者』というのはちょっとどうかと思いますね」

「だとすると余計に、戦闘や戦争を司る神なら選びそうだな……」


 …………まぁ、うん。強い相手と戦う事が目的で、その為の手段も選ぶ方だから、平和な時代になっても災害にはならない筈だし……。

 とか思いつつ空の様子を見ていると、ズバババッ!! と続けざまに切れ目が入った。三角の形に切り抜く感じの。それも丁度私の真上に。

 ……ん? とちょっと嫌な予感はしたんだよなぁ。


『やるならやるで事前報告をしてください「第二候補」!!!』

『いや流石にこれは儂も想定外なんじゃが!?』

『あなたの事ですから「何か起きそう」ってぐらいは分かっていたでしょう!!』


 何が起きたかっていうとだな。



 切り離された雲が、巨大なスライムになって降ってきたんだよ……!!



 私が慌てて満タンを維持していたリソースを3割ほど叩き込んで領域スキルを強化しつつ、球状に展開していた形を上の方を凹ませる形に変更して受け止め、そこに周りの召喚者プレイヤーとうちの子総手で火属性魔法を叩き込みまくって何とか蒸発させたけど、ちょっと待てや「第二候補」!!

 お陰であの溶ける雨を降らせる雲が完全に「敵」だっていうのも分かったし事前に削れるのも分かったけど! うっかりするとあのスライムに街が押し潰されてたところなんだが!?


『いや、まさかまさかじゃよ。妙な手応えがあるのうとは思っておったが、雲がスライムになって落ちてくるとは思わんわい。……まぁ「第三候補」の真上で切り離したのはその方が良い気がしたからじゃが』

『後で殴るから逃げるな戦闘狂』

『口調がボロボロになっておるぞー』

『誰のせいですかっ!?』


 主力だった魔法使い召喚者プレイヤーが一時的に手を取られた為、今周囲では戦線の立て直しが行われている。色々対策はしていてもごっそり装備の耐久度を持って行かれた召喚者プレイヤーも多いらしく、ルージュが忙しそうだ。

 私も領域スキルの強度を戻して回復中である。全く、本当に、やるならやるで一言かけてからにしろと言うんだ。可能なら司令部に相談してからやれ。


『まぁしかし、「第三候補」も薄々分かっとるじゃろ? 今の司令部はちとのう』

『ならせめてフラップさんに相談してください』

『声は掛けたぞい?』


 ……ここでカバーさんを振り返る。首が横に振られ……たかと思うと、ぱぱぱっと何かメニューを操作して確認したようだ。


「……一応、クランメンバー専用掲示板には報告というか、警告というか、注意喚起が書き込まれていますね。その時間的に、書き込んだのとほぼ同時に雲が切り分けられたようですが」

「本当に「声を掛けた」だけじゃないですか」


 私は相談しろと言ったんだ。人数が増えて最適解が出し辛くなっている司令部はともかく、フラップさんの書き込み速度はカバーさんとほぼ同じだ。それでほぼ同時って事は、下手すれば声を掛けながら動いてるじゃないか。


『声を掛けて、返事と応答を確認してから動いてください。声を掛けながら動くのは報告とは言いません』

『じゃが後手に回ると後が厳しいじゃろう。多少は無理をしてでも意表を突かねばならんぞい』

『敵を騙すには味方からと言いますが、それで味方や防衛対象に被害が出てれば意味ないんですよ』

『まぁそれはそうなんじゃが。……で、続けていけそうかの、「第三候補」』

『同じ場所は無理です。「第一候補」とも相談しますからちょっと待ってください』


 ウィスパー、ではなく、クランメンバー専用掲示板で相談だ。こっちの方がセキュリティが高い可能性があるからね。というか、ここを覗かれていたら色々終わりだし。

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