第1345話 42枚目:眷属の話

 そこから間もなく、入り口前広場、ではなく、近くにあって元の形に戻った建物にそれなりの冊数の本が運び込まれた。私は領域を維持する必要があるのでその動きを横目に見るだけだったが、元『本の虫』組の中でも特に信用できる人に限定して解析、というか、対話をする事になったらしい。

 まぁ結果の内、この空間異常をクリアする為に必要な情報は共有するにしたって、発見したのはルイル(とルール)の手柄だからな。基本的にその成果は『アウセラー・クローネ』のものとなる。

 表面上は「資料の解読」だった事もあり、運び込みとその後の動き自体は実にスムーズに行えたらしい。普段の行いって大事だよね。


「と、情報が更新されましたか」


 雑魚よりは大きいけど大型よりは小さい、そんな取り巻き感のあるモンスターが一緒に出現するようになってきてそろそろ領域スキルの範囲を固定するべきか? と思い出した辺りで、司令部に情報が届けられたらしい。

 更新されたスレッドを確認すると、どうやら“採録にして承継”の神は現在、休眠状態にあるのだそうだ。その理由はもちろん「モンスターの『王』」の影響、“溶”かすのそれから身を守る為なのだが、それによって街のあれこれの一部が機能不全を起こしているらしい。

 ただし問題となるのは“溶”かすの性質と言うか能力であり、これは読んで字のごとく、自意識や境界線といったものが、他のものと混ざってしまうんだそうだ。


「……“歪”めるも大概でしたが、こちらも性質の悪い事で……」


 そう言えば今更だが、“偶然にして運命”の神に出ていた影響は「一度内に抱えた存在を外に出さない」という方向に傾倒する事だったようだ。だから他の神が独立する足掛かりとなる出会いを潰したし、裏カジノへ移動した後は外に出る事の難易度がやたらと高かった、という事らしい。

 それをうまく利用されて眷属の力の一部を自ら奪って「丈夫な金庫(檻)」に閉じ込めてしまったんだから、いいように転がされてるんだよな。そういう風にそそのかしたのはその「檻」自身だぞ。

 話が逸れた。ともかく、神の休眠が原因でこの街は機能不全を起こしている。とはいえ、肝心要の部分は眷属や神官の人達によって問題なく運用されていた。例えば禁書の封印とかな。


「が。とうとうその影響が、神官の人達にも及び始めたと」


 もちろん神官の人達も眷属さん達も、可能な限りの防御手段はとっていた。しかしその上でなお影響を受けたって事で、眷属さん達は自分達への影響、ひいては休眠する事で繋がりを断ち、最悪を避けている神へ影響が及ぶ事を恐れ、神官の人達から離れたようだ。

 なので現在、眷属さん達は本神殿の様子も分からないし、“採録にして承継”の神は眠り続けている。一応辛うじて、各種封印などの絶対に機能不全を起こしてはいけない部分がちゃんと生きているのは確認しているが、それ以外はほぼ分からない状態なんだそうだ。


「……なるほど。恐らく前回はその「自意識や境界線が混ざる」という中に、邪神の信徒のそれが混ざったんでしょうね」

「妙に順調にいったもんだと思ったら、実質神官が乗っ取られてたのか。推測だが」


 あくまでも推測だが、まぁ間違ってはいないだろう。痛み分けに持ち込むのが精一杯とは何があったのかと思ったが、「モンスターの『王』」の能力と邪神の信徒としての能力の相性が良かったのもあったようだ。

 さてそこまで分かったところで眷属さんからのお願いなのだが、どうやら他のタイプの眷属さんもいるらしく、彼らを探してほしいとの事だ。あと、本神殿と神官の人達が無事であれば、そちらに戻してほしいとも。まぁそうなるよな。

 あとついでに、眷属さんが一緒であれば街の機能を動かせる場所もあるのだそうで、それもミニクエスト扱いになるらしい。そちらは司令部が更新するスレッドに詳細は載っていなかった。


「まぁ封印や便利機能に関わりますからね。伝える相手は選ばないといけません」

「そこで利用されたら前回の二の舞だからな」


 という事で、クランメンバー専用掲示板には詳細が載っていた。まぁ私は動けないし、たぶんルイルとかは既に動いているんだろうけど。

 ……封印の調節とか、エリアバフの起動とかあるな。これはマジでちゃんと起動して、しっかり防衛しとかないとダメなやつか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る