第1322話 42枚目:火力合わせ
普段は範囲と火力が高くて使いづらい魔法を遠くから連打してじりじりレイドボスの体力を削っていきつつ、蛾の形をした無機物の塊が羽をはばたかせたり触角を振り回しているのを見ていると、ウィスパーが届いた。
『どうしました、「第四候補」』
『やぁやぁ「第三候補」、順調そうで何より! 連打のペースは問題ないみたいだな!』
『そうですね。完全に回復力の方が勝ってますし、時間があって隠し玉が無ければこのまま削り切れると思いますよ』
『頼もしいなー! まぁ時間は無いし隠し玉はたぶんあるだろうけど!』
確か私の攻撃に合わせて同属性の魔法を叩き込み、檻を自壊させるチームの指揮を執っていた筈の「第四候補」だった。私とは違う方向で、いるだけで周りのステータスが跳ね上がるからな。
あっちはあっちで味方が増えれば増えるほど倍々算式に総合戦力が上がっていく、集団戦闘に特化したスキル構成だ。もちろん進んで協力してくれる味方ありきだが、元々運用しているのは使い魔だし。指示が無いと動かない人形が
で、そんな戦い方をしているからか、そうだったからそういう戦い方を選んだのか、「第四候補」は戦略的なプレイヤースキルもかなり高い。チェスとかが得意そうな空気がある。ので、このタイミングでウィスパーを飛ばしてきたという事は、そっちの意味での何か提案だと思うんだが。
『そんでさー、この分だとまーまず残り3割んとこでなんかあるだろっていうのが司令部の推測な訳だ!』
『まぁ何かはあるでしょうね。私もそう予想してますし、大多数の
『だよなー! だからちょっと早回ししようぜってあれだ、スライムで大規模爆破するから、「第三候補」も大規模な爆発系の魔法を被せてくんねーかなって!』
まぁそういう事だよな。火力合わせの相談だった。
でもまぁ確かにこのままじりじり削っていって、もし3割を切ったタイミングで回復する能力があったりしたらまずいからな。一気に境目を越えて押し込むだけの瞬間火力は必要か。
そうでなくても時間は刻々と減っていってるんだし、流石にこれで終わりだとは思うものの、この後に何かが待ってる可能性もあるからな。
『……爆発なんて属性ありましたっけ?』
『あれ!? 無かったっけ!?』
『雷属性はあっても爆発属性は無かったと思いますよ。どの属性の爆発型魔法、というのはあると思いますけど』
『だっけそっかちょっと待って確認する! …………火属性だった!! でも出来るだけ打撃属性がついてるやつで!』
『分かりました。次に火属性を撃つタイミングで実行ですね』
『そゆこと! ヨロシクなー!』
ちょっと属性に関する確認はあったが、ともかく。打撃属性、となると、火属性の大技といって思い浮かぶあの大剣ではだめだな。そして広域、味方まで吹っ飛ばしては意味が無いから、出来るだけ小さい奴が連鎖する感じの方がいいか。
視界の端でスキル一覧を開いて、アビリティを確認。んー、周りの迷惑を考えなくていいんなら、そうだな。
「[紅く開くは爆炎の花
空を彩り大地を埋めて
見える限りに咲き乱れ]」
詠唱自体は規模に反して短いが、ここでちょっと工夫。具体的には火の精霊さんを呼んで、威力を上乗せしてもらう。
反対側から箒に乗って「第四候補」が飛び上がってきたのも見えたし、その手があのスライムの杖を掲げているのも見えたし、遠慮なくいこうか。
「[形の有無に関わらず
その場の全てを吹き飛ばせ――メニーマイン]!」
可能な限り魔法の効果範囲をレイドボスに重ねて、精霊さんブースト付きで、叩き込んだ。同時に、空から赤いスライムが滝のように降って来る。
私の魔法が発動するのとタイミングを合わせてスライムが巨大な無機物製の蛾に触れて、
――――ドゴゴゴゴゴゴガガガガガガガアアァアアアアアンン!!!
「うわっと」
多重爆発。距離があって耐性の高い私でもそれなりに衝撃を感じるほどの規模で、まさしく盛大に炸裂した。
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