第1312話 42枚目:引っかかり

 そうこうしている間に、中ボス(仮称)の檻は全てがクリアされたようだ。3分の1ぐらい描かれていた魔法陣が消えた。よし。最初からやり直しは阻止出来たな。……とりあえず1回は。

 まぁ1回で終わる訳もないんだけどな。と、長く響く軋むような音を聞きながら、司令部によって全体が映るように撮影・中継されている動画の中で、同じ数の大きな円柱型の檻が下りてくるのを見る。

 今度はもう既に突入するパーティが決まっていたようで、スタートダッシュをかける為に周り中からバフが乗せられていた。まぁ、ちょっとでも撃破は早い方がいいからね。


「撃破に成功した人も、強敵だったからか大量のコインがインベントリに入って、身動きできなくなっていましたからね……」


 空中で受け止められて、そのまま担架で運び出されていた。何かデバフを食らった訳ではないから、すぐ戦線復帰してたけど。大量のコインはそろそろ本気で邪魔なのだが、万が一召喚者プレイヤーが捕まった時の保険を考えると、ドロップするなとも言えない。同じく街に戻って実用品に交換するのもちょっとな。

 本当に色々細かいところで面倒くさい。と思いつつ、雑魚掃討で溜まったコインを預けに行く。流石に集積所でもある防壁がいっぱいになる前には何か手を打つだろうけど、容量は大丈夫なんだろうか。

 ……軽く聞いてみたら、流石にこの超特大の闘技場を囲む形で作っただけあって、まだ5分の1弱だとの事だった。帳簿もちゃんとつけているし、今のところ抜けはないらしい。なら大丈夫か。


「しかしそれにしても、まだまだ減った気がしませんね……」


 こちらは中継ではなく、時々更新されるスクリーンショットという形で、推定レイドボスの本体である鎖と檻の立体型蜘蛛の巣を見る。ごちゃごちゃしてるな。暗めの金属で出来た鎖と檻だから更に重苦しく感じるし。

 たぶん司令部はこのスクリーンショットから、檻の数や種類を割り出そうとしている筈だ。残りのギミックが何種類あるかだけでも分かればだいぶ違うからね。といっても、立体的な構造をしているから、私からでは何が何やらだし、下から見上げる限りでは隠れてしまっている部分も多いんだけど。

 ちなみに、スクリーンショットにはその鎖の群れを上から撮ったものもある。上というか、斜め上、闘技場の外から撮ったものだな。真上だと鎖が飛んできて撃ち落とされ、捕まえられてしまうと書いてあった。なお、その確認に使われたのは使い魔なので何も問題はない。


「今は、この鎖が屋根みたいになってるんですね。それもドーム型の。直径に合わせて丸みを帯びているとか、妙なところで丁寧というか……」


 そのタイミングで、上空からのスクリーンショットが更新された。……大して違いがあるように見えないな。本当に減ってるのか?

 まぁ他に出来ることも無いし、主に闘技場本体へのダメージを避ける為に大規模な攻撃は出来ない。同様に、周りに被害が出なくても何が起こるか分からないので、あの鎖の塊への直接干渉は避ける方針だ。それは分かってるんだけどなぁ。

 とりあえず定位置に戻りながらそのスクリーンショットを眺める。いや、だからどうしたって言われたら何となく、なんだけども。


「んー……?」


 高さと角度の問題で、防壁からでは見えない推定レイドボスの本体。削れてはいる。削れているのは間違いない。のだが。なんかこう、違和感というか、引っかかるんだよな。

 私の嫌な予感は当たる。それも悪ければ悪いものほど。ということは、それが無い現状はまだ何とかなるか、そこまで悪いものではない、って事なのかもしれない。

 まぁでも気になってるって事は、放置するとたぶんダメな類ではあるだろうしなぁ……。と思いながらスクリーンショットを眺めている間に、固定砲台をしている場所に戻ってきていた。


「私の知識が足りないのか、それとも情報自体が足りないのか。もうちょっと様子見するしかないですか……」


 あの中ボス(仮称)のギミックを越えたら何か出てくるかも知れないしな。さーて援護射撃をする固定砲台のお仕事だ。

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