第1302話 42枚目:状況進捗

 コインは箱との交換でほぼなくなっているが、防壁は闘技場を囲むことに成功した。つまりそれぐらいの時間が経過したって事だな。

 私は相変わらずサーニャとのコンビで対応しているが、割と本気で壁系魔法を設置しておかないと処理が間に合わなくなってきた。モンスターの種類だけではなく、コインを投入する事で上げられる最大出現数も増えてるからな。

 ま、実際に間に合わなくなったらその時点までで投入を止めればいいんだ。処理が間に合わないっていうのは出現からの秒殺でって意味だし、行動阻害系のトラップ系魔法を含めるならまだ対処は出来る範囲だから。


「しかし、交換用のコインは一体どれだけ持って行かれたんですかね。裏カジノの規模からして相当な枚数だとは思いますが、「ジャックポットボーナス」という形で吐き出されてきたのも既にかなりの量になっている筈なんですけど」

「さぁ、ね!」


 防壁は建設完了したので、別に秒殺にこだわる必要もないんだけど。両隣に位置する入り口で戦ってる召喚者プレイヤーの人達がちらっちらこっちを見てくるから、たぶんもうちょっとモンスターを増やして一緒に戦う形にしたら喜ぶだろうし。

 サーニャは相変わらず前線だが、私は防壁の上へ移動済みだ。一回着替えたのでもういいかとそのまま再現ドレスだし、結局どうも体感、これが一番ステータスの上り幅が大きい気がするんだよな。

 あれか? 加護と祝福か? やっぱり神の力は大きいって事か? それにしてもいつもより調子がいい気がする。なんだかんだしながらドレス姿で過ごす事が多かったからか?


「……そうか。ここは“偶然にして運命”の神の力で構築された、半ばあの神の領域です。が、今は形式上とはいえあの神の下にボックス様がいるんですから、つまりボックス様の領域に近くなっている場所でもあるという事。なるほど」


 謎は解けた。そういう事か。ボックス様ありがとう!


「姫さん、自分のレベルが上がってるの忘れてない? 制御訓練ってそういうのも入ってるからね?」

「そういうのと言いますと」

「どこかの領域に踏み込んでもいつも通りを維持するっていうやつ」


 訓練の成果だったようだ。そういえば随分前にエルルが言ってた気がするな。魔力を巡らせて薄く纏う事で周囲からの影響を軽減できるとかなんとか。なるほど、こうなるのか。

 それにしても変化が無いな、と思いながら召喚されたモンスターを倒しきり、再びチャージを始めた手配書(仮)にコインを投入しに行くサーニャを見送る。内部の様子は掲示板で一応伝わっているが、ゲームに挑んでコインを回収、特殊な箱に詰め込んで運び出す地点から何も進んでいない。

 モンスターの討伐は進んでいるが、それで削り切れるほど甘い相手じゃないだろうしな。やっぱり本体を袋叩きにしてこそのレイド戦だし(※個人の偏見です)。


「やっぱり怪しいのは、あの円形の雛壇なんですけどね。わざわざ中央に堂々と存在してるんですし。あれが頭もしくは殻みたいなもので、下から出てくるかあるいは変形するのか、中の空間が歪んである種圧縮されてるとか……?」


 んん、と考えるが、雛壇は囮でした! って可能性もあるからなぁ……。そこをひねっちゃうかぁ……ってとこに手間をかけるから。フリアドの運営は。

 インベントリにまだ余裕はあるが、一応次の掃討が終わったら司令部にコインを届けてこよう、と思ったところで、とん、と着地の音がした。すぐ横で。ん?


「サーニャ? どうしました?」

「どうしたって姫さん、そりゃ、いきなりあの紙じゃない紙が全部消えたから警戒しに戻ってきたんだよ」


 全部消えた? と、入り口の扉に視線を戻すと、確かにそこには何も無くなっていた。召喚者プレイヤーの分も合わせると扉が一部とはいえ見えなくなるほどあったのに。

 そのサーニャの動きに一歩遅れて、他の入り口でモンスターを倒していた召喚者プレイヤー達も急いで防壁へと戻っていったようだ。交代要員として待機あるいは休憩していた召喚者プレイヤーも出てきて、全体が警戒状態に移行する。

 とりあえず私も防壁に防御魔法をかけて強度を上げたところで。


「……これ、中は無事ですかね」

「エルルリージェがいるから大丈夫じゃない?」


 バァン!! と入り口だった扉が大きく開き、モンスターの群れが、雪崩を打つようにして飛び出してきた。

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