第1274話 42枚目:一時帰還

「お嬢、大人しく……してるな、よし」

「戻ってきて顔見て第一声がそれって酷くありません?」

「今までの事を考えろ」


 そろそろリアル夕方が近くなってきたころに、エルルが調理場へと顔を出した。いや、他に言う事あると思うんだけど? 割と心配してたんだけども?

 まぁしかし、元気そうでよかった。と思いながらカップケーキを大皿に移し替えていると、ひゅんっ、とエルルの背後から何かが飛んできた。


「せ゛ん゛は゛い゛――――――っっ!!」

「んぶっ」

「怖かったっす! 酷い扱いされたっす! 何も悪いことしてないのに牢屋に入れられたっすー!!」


 そしてそのまま、顔面に直撃。いや、分かってるんだけど。フライリーさんなのは分かってるんだけど。よしよし、落ち着こう。別にちょっと息を止めてるぐらいでどうという事はないけど、手にカップケーキ持ったままだから。

 周りの人も(私がいるって事で集まった可愛い好き召喚者プレイヤーなので)よしよしとフライリーさんを宥めるのに回ってくれたので割とすぐに落ち着いてくれたが、よほど酷い扱いを受けたらしい。

 お菓子作りは忙しいが、とりあえずはフライリーさんが優先だ。って事で、お菓子の一部を持って部屋を移動する。


「カバーさんがログアウトするんで、じゃあもうちょっと見学だけしとこうかなー、と思って別れたら、すぐ虫取り網で捕まえられたっす……。そのまま袋に詰め込まれて、外に出たらもう檻の中だったっす……」

「完全に誘拐じゃないですか。実行犯は分かったんですか?」

「捕まってたらここまで騒いでないんだよな。だから召喚者でも、珍しい種族の奴は複数人数で行動するようにって勧告されてるぞ」

「表面上はまともに見える分だけ治安が最低ですね」


 思ったよりもだめだったな。やはり裏カジノごと潰されても文句はいわれないのでは? ……ダメか。ダメだな。ボックス様を始めとした他の神様もいるからな。“偶然にして運命”の神だけならともかく。

 ちなみにサーニャは救出した竜族の子供の面倒を見ているそうで、念の為街の外に出ているようだ。まぁ、街の中だと安心できないのは分かる。しかもこんな堂々と誘拐が行われてるのが分かった直後だと。


「普段ならそんな網も袋も秒で焼いてやったっすけど、街の中だと思って手を止めたらこうっすよ! 次は加減無しっす!!」

「何て本気で言ってるやつを外に出す訳にもいかないだろ。だから助けてその足でお嬢のとこに連れてきたんだ」

「そうですねぇ。まずフライリーさんは空間属性の魔法を使えるようになりましょうか。そしたら防御も相手の生け捕りも妨害も思うままですし」

「お嬢もお嬢で怒ってるのは分かったから、それ以上手を付けられなくするな」


 どうやら怖かったのも本当だが、怒っていたのも確かなようだ。そうだね。街の中だと大規模な魔法の展開はやりづらいよね。だから周りに被害の出ない魔法を教えてあげよう。……と思ったら、エルルからストップがかかった。えー。

 しかしまぁそれでいくと、私が自衛に勤めていたのは大正解だった訳か。絶対狙われるに決まってるだろうし。それもエルルとサーニャっていう護衛が、既に裏カジノへ招かれ済みなんていう絶好のチャンスだっただろう。


「……いえ。ボックス様があちらにいらっしゃるんですから、本命以外の神々の防御をお願いしておけば、少なくとも神様へのダメージという意味では被害が大幅に軽減できるのでは?」

「お嬢?」

「どういう意味っすか、先輩?」

「流石にここまで治安が終わってるというか、「モンスターの『王』」の影響が出ているのであれば、万一すでに手遅れだった場合ティフォン様をお呼びするしかないかなと思っていましたので、その対策を」

「止めろお嬢。この街が焼け野原になるだろうが」

「加減はしますよ? もちろん最終手段ですから一般住民の方々も逃げてもらいますし」

「ここまで信用できない「加減はする」は聞いたことが無いんだが!?」

「わぁ先輩が思ったより怒ってたっすー。裏カジノだけなら焼け野原で完全同意っすけど」

「なるほど。なら裏カジノの入り口が見つかったらそこに叩き込みましょう」

「止めろ!」


 やっぱり一度諸共焼いても問題ないのでは? と思ったが、最終的にエルルに怒られてしまった。解決のめどが立たないんだから仕方ないじゃないか! 私だってスムーズに問題が解決できればこんな極端な事は言わない!

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