第1228話 41枚目:展開は遅い
私が【調律領域】を展開しても特に何も起こらないことを確認して、ルディルは生産作業を開始した。エルルはもう一回この部屋にあった道具を調べに行っている。
私は檻の中にいた子をなでるお仕事で手一杯なので、実質休憩だ。魔法は目視で発動できるから、ちまちまと近い部分から魔法で掃除したりしてるけど。しかし取れないな、この血のにおい。
まぁ換気は出来ないから仕方ないか……と諦めて、宿光石のランタンに【調律領域】で魔力を注ぎつつ、その範囲の汚れと格闘しながら、掲示板で探索の進捗を見ていた、の、だが。
「……精神的に限界が近いか限界を超えていたのは何となく察していましたが、起きませんね。どうしましょう」
「作業は捗ったけどぉ、流石に材料がもうないしねぇ」
「流石にアレクサーニャもしびれを切らしかけてるんじゃないか?」
ログアウト時間が迫ってきても、まだ名前の分からないこの子が起きないんだよな……。すやぁ……と、すごく穏やかな顔で寝てるからこのまま寝かせてあげたいのは山々というか、起こす気は無いんだけどさ。
でも、起きてみたら誰もいなかったとか落差がえぐいよねっていう話でもあると思うんだ。起きたら外に連れ出されてたも同じく。私はこの子を甘やかすと決めたからな。異論はねじ伏せるからかかってこい。
まぁつまり、この子をここから動かす訳にはいかず、それはつまりこの場所へ入る権利を持っている私が動けないって事だ。おそらく権利自体はもうちょっと人数が増えるだろうが、出入りに関してどんな制限がかかってるか分からないからなぁ。
「その辺が分かれば情報が来るはずですが、とりあえず見つかった情報が並ぶ中にはないんですよね」
「でもぉ、起き続けてる訳にはいかないんだよねぇ?」
「無理があるんですよね。いえ、体的には起きてても問題ない筈なんですけど、こう、強いて言うなら大神との契約的に」
「前に5日とか動きっぱなしだったこともある筈だが……そうか、あれは本来の時間の流れだとそんなに経ってない事になるからか」
「そんな感じですね」
リアルのログイン制限って説明が難しいな。このはっきりしない感じの説明でも2人は納得してくれたみたいだけど、テイムによる現代知識と
つまり同じ説明をしても、今すっかり寝入って起きる気配が無いこの子に理解できるかどうかは分からないんだよな。だからといって頭の下から足を抜いてこの場にテントを設置するのもそれはそれでどうかって話の気がするし。
「……このままうっかり寝落ちてしまったという形で後の事をよろしくお願いしていいですか?」
「何一つ良くないが?」
「と言ってもこの子のそばを離れる訳にはいきませんし……」
「どっちにせよ、今の状態だともう出来る事はないからねぇ。一回外に出れるか試してみた方がいいと思うよぉ」
ルディルの提案で少し相談し、エルルがランタンを持った状態でこの場に残り、私とルディルで一本道を戻ってみる事になった。明かりが無くても普通に見えるとは思うのだが、属性的に光が無いとヤバそうな気配が、しててね。
道を探りながらの行きと違い、通路を壊さない程度に走れる帰りは早いもんだ。ものの数分で隠し扉だった場所に辿り着くと、今度は勝手に隠し扉が開いた。
「無事に出れましたね」
「そうだねぇ。次はぁ……新しい人を連れて行けるか、かなぁ?」
掲示板とメールで報告自体はしていたし、恐らく共有もされている。が、一応部屋に待機していた司令部の人に改めて内部の状況を説明し、案の定準備万端だったらしい
サーニャも呼んでもらってエルルともども無事を伝え、サーニャに渡して持っておいてもらった素材を受け取る。それ以外にも司令部の人達から文字通り山のような素材を渡されたので、まぁ、内部時間1日ぐらいは優に生産作業漬けになるだろう。主にルディルが。
突入準備の中に宿光石のランタンもあったので、今度は軽くランニングするくらいの速さで進んでいく。最前線に出れる
「戻りました。エルル、何か変化はありましたか?」
「いや、何もなかったな。扉の音が聞こえたぐらいだ。たぶん方向的にお嬢達だと思うが」
「え、あの距離で聞こえんの……?」
「しかも土の中だろ」
「知ってたけどドラゴンぱねぇ……」
どうやら何も変化は無かったようだ。一応、一安心、だろうか。たぶん。恐らく。
という事を確認したところで私がタイムアップである。流石に内部時間で丸1日、煮崩れオートミールを食べてもらった時から考えるとほぼ2日だ。次にログインした時には起きてくれてるといいんだけど。
……なお、私のテントは階段のすぐ横に設置する事になった。確かにここなら種族特性のバフを積み直すのに便利だけどさ。
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