第1226話 41枚目:話の準備

 ルディルによるアレルギーや種族的に食べられないものの鑑定が終わるまで、コップに入れた白湯、というよりほんのり温かい水を檻の中に入れてからは物騒な物を端に固めて大きな布を被せておいた。

 においの方は……まぁ、もうしょうがない。この中で他のにおいを出しても混ざって酷い事になるだろうし、流石に消臭するにも限度がある。それでも一応、檻の近くには消臭剤を置いてみたけど。

 しかし何をしててもしてなくてもこの子「ごめんなさい」しか言わないしうずくまったまま(土下座?)動かないし、どうしようかな。扉っぽい場所は見つけたけど、鍵かかってるし。


「開けようと思えば開けられると思いますが……鍵を使った方がいいですよね」

「そりゃそうだ」


 という事で、この子について調べてほしい事と、檻とついでに足枷の鍵が無いか探してほしい事を書いたメールをカバーさんに送っておいた。たぶん地上では今頃、長の家と思われる場所をメインに捜索が行われているだろう。……家も地下が主だから言い回しが面倒だな。

 そのタイミングでルディルが戻ってきてくれて、とりあえず普通の穀物や芋なら大丈夫そう、という事を聞いて、とりあえずほぼ完全に煮崩れたオートミールを作る事にした。いきなりがっついて大丈夫かも分からないし。

 煮込んでいる間にカバーさんから連絡があり、鍵が見つかった事が伝えられた。なので火を最小限にしてから一旦道を戻り、鍵を受け取ってから再び檻のところまで戻る。


「……震え以外に身動きした様子が無いのはまぁ想定内です。エルル、お願いします」

「まぁ俺が適任か……」


 檻の扉を開けたところで更に怯えが酷くなった、というか、頭を抱えてしまったので、本当にどんな扱いをされてきたのか。まぁ推定長の家からしか来れない場所なんだから、この集落の誰か達が原因なんだろうけど。

 エルルは慎重に様子を見ていたが、とりあえず入るだけなら問題なかったようだ。ひょい、と身を丸めている檻の中の子を抱え上げて、そのまま檻から出てきた。足枷に繋がる鎖はかなり長いようで、端にあったらしい扉を通っても近くまで来れたようだ。

 で、私の目の前まで連れてきてから降ろして、足枷の鍵を外してくれる。さてこれで自由になったな。……本人、足枷を外されたことで更に震えてるけど。これ、待ってても話が出来る状態にはならないな。


「食べさせるのは難易度が高いですし……ならいっそ、ご飯の前に体を洗った方がいいですかね? 服も着替えた方がいいでしょうし」

「というかぁ、この子、性別はどっちなのかなぁ?」

「たぶん女でいいと思うぞ。特殊な種族だと例外があるから言い切れないが」

「じゃあ私とルディルで担当ですね」


 という訳で、さくっと古代魔法のお掃除セットでその子をきれいにする。いやー、魔法って便利だな。もちろん可能なら温かいお湯につかってもらって、いい匂いのする石鹸とか使ってもらいたかったんだけど。

 何気に裁縫も出来たらしいルディルに、大きなタオルから簡単な服を作ってもらっている間に、私は威力の弱い回復魔法を使って傷を癒していく。もー、何となく予想はついてたけど、女の子の身体をこんな傷だらけにしてるんじゃないよ。

 服を着替えさせてからせめてと私がブラッシング。うわ、ごわごわになってる。これは後でちゃんとお風呂に入って洗わなければ。(使命感)


「ご、ごめ、なさ……???」


 流石にブラッシングまでくるとどうやら「何か違う」事には気づいてくれたらしく、赤い目にいっぱい涙を浮かべた状態でもその子は「ごめんなさい」の連呼を止めてくれた。よしよし。

 代わりに目一杯困惑してる感じがするが、まぁ、まずは落ち着いてくれて何よりだ。さっきまでの状態だと、話なんてとても出来る状態じゃないからね。

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