第1198話 41枚目:戦闘終盤

 で、具体的な変化というか動きがあったのは、大量の祝福された水の投下が3回目になった時だ。

 もちろん最前線で戦っていた召喚者プレイヤーは一時退避していたし、“湧水にして脈穴”の神の眷属さん達も上空か街の各地にある神殿上空に移動しているので、湖跡地周辺はがら空き状態だ。

 当たり前だが、それは上から投下される大量の水を避ける為だし、その水が砂を相殺し終わって無くなったら、再び攻勢、というか、街と上空にいる“湧水にして脈穴”の神を守る為の戦闘を再開するつもりである。


「……砂が、出てきませんね?」


 だから身構えていたのだが……今までは水が尽きるとほぼ同時に、触手っぽく沸き上がってきていた砂が、今度は全く姿を見せない。迂闊に近寄る訳にもいかないので湖跡地の下に何があるか、私の位置からでは見えないんだよね。

 まぁでも何か変化があったんなら、“湧水にして脈穴”の神がいるらしい上空の空間異常付近に待機している観測班の人達から何か連絡があるだろうし。それが来ないって事は、まだ観察中か、変化らしい変化がないのか?

 で、上を見上げてみると、変わらず飛んでいる姿が見える。……それがちょっと困惑しているように見えるのは気のせいか。


「え。まさかこんなあっけないというか、消化不良な終わりではない、ですよね……?」


 確かに、途中で見ていた湖跡地の深さはどんどん増していたけども……? と、思っていると、ゴン、という大きな音が響いた。私は空気の足場に立って様子を見ていたので何事も無かったが、地上はそうじゃなかったようだ。

 再び、ゴン、という音と共に、今度ははっきり地上の建物が揺れたのが見える。うわ、大惨事。レンガを積み上げただけみたいな構造だったからな。たぶん“導岩にして風守”の神がいたから、地震なんて起こった事が無かったんだろう。

 地上が少しでも被害を軽減する為に慌ただしく動き出す中、再びの、ゴン、という音。同時に、湖跡地から穴を登るようにして、何かが出てきた。


「……あー……」


 それは巨大な、土で出来て砂を纏った人型だった。マネキンのようなそれが湖跡地の縁に片方の手をかけ、上半身を引きずり出している。そしてもう片方の手を湖跡地の縁に置くと、ゴン! という音と共に地上が揺れたのが分かった。

 あの分では大通りに片足が収まるかどうか、と言ったところだろう。が、私がある種納得して頭痛を覚えたのは、そこじゃなくてだな。


『デイカー!? お前、姿が見えないと思ったら、それは一体どういう事だ!?』

『どうもこうもあるか……! 神の眷属が、神を守って何が悪い!』

『それのどこが神だというんだ!』

『貴様らがそんなだから、こんな事になったんだろうが!』


 その巨大な人型に付き従うように、明らかに元気な、でもちょっと鱗の色がおかしい東洋龍が飛んでるんだよな。そして上空にいた別の東洋龍、眷属の人とそんな会話をしているので、やっぱりあの人も“湧水にして脈穴”の神の眷属らしい。

 で、この会話って事は……あれか。たぶんあの巨大な人型、“湧水にして脈穴”の神の一部というか、「モンスターの『王』」の影響を受けた部分を切り離したとか、そんな感じだな……?

 なおデイカーと呼ばれた眷属さんの言い分によれば、“湧水にして脈穴”の神は周りからの求めに応じ続けて疲弊していて、そこに異界の力の影響を受けてこうなったらしい。だから、神の形と権能が若干(?)変わってもこれは暴走ではなく、神罰だ、との事。


「うーん、本当に厄介な特性ですね。“歪”めるというのは」


 これの何が厄介かって、その言い分も、全部は間違ってはいないって事だ。たぶん神が疲弊してたって辺り。もっともそのやり方と方向性は、思いっきり「モンスターの『王』」の影響を受けて斜め上もしくはひねくれたもの、つまりは暴走になってるんだろうけど。

 他の眷属さんの事も敵視してるって事は、これもたぶん全部間違いって訳じゃないんだろうなー。もちろん完全に正しい訳でもないんだけど。


『ちぃ姫さん、今宜しいでしょうか』

『はい、大丈夫ですよ。方針が決まったのなら聞きたいぐらいですし』

『ありがとうございます。とりあえず言い分は大体聞けましたし、このままではこの街が破壊されてしまいます。ですので石の棒も併用しつつ、あのデイカーと呼ばれた眷属の方の死角に回り込み、あの人型に回復魔法と変化を拒絶する魔力を浴びせる、という方針になりました』

『まぁそうなりますよね。分かりました』


 そして眷属同士で言い合いをしている間も、巨大な人型は止まってない訳でさ。まぁそうなるよね。あのデイカーって人はどうするのかと思ったが、たぶん他の眷属さんに任せるんだろう。

 しかし、神の一部と眷属1人が原因だったか。……神が分霊とかじゃなくて、本体を分けてるっていうのは、ちょっと想像できなかったな。

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