第1196話 41枚目:ようやくの展開

『眷属の方々について来て頂くことにより、上空に空間異常がある事が判明しました。またその空間異常には“湧水にして脈穴”の神の気配があるようですが、眷属の方々でも空間異常を解消する事は出来ない、との事です』


 と、いうのが、速報代わりに届いたカバーさんからのウィスパーだ。神様自身は上空にいたのか。そして出てきてもらう事は出来そうにない、と。

 ……要はそれ、追い出されたあるいは逃げ出した先からまだ戻れないって事なのでは? と考え至って頭が痛くなったが、まぁ、ある意味遠慮はいらなくなったな。主に湖跡地を掘り返すことの。

 何せ、本来そこにいる筈の神様は、同じくその場所にいた精霊達と共に離脱済みだ。という事は、今湖跡地にいるのは、神様を追い出した元凶って事になる。つまりは、敵だ。


「そろそろ詰めにかからないと、時間がありませんしね……」


 しかし、相手の正体が分からないな。だって湖跡地の下に元凶がいて、本来そこにいるべき神様が上空にいるって事は、元凶は湖の底、地下水脈から影響し始めた、って事になる。

 この土や砂が「モンスターの『王』」の影響を受けたものであるのは確定的に明らかってやつだし、そうなると普通に考えれば神様が影響を受けたって事になる筈だ。神様が無事だった場合、次点に来る候補は精霊だし。

 けど、今回はその両方が無事だった。つまりそのどっちでもないって事だ。……じゃあ、他に誰もしくは何がいる? って話なんだよな。それがぱっと思いつくんならここまで考え込んでないんだけど。


「司令部から何も情報が来ないって事は、司令部と検証班にも分からないって事でしょうし」


 何らかの事情で情報を伏せている、っていうのも無くは無いだろうが、今ここでやる意味は無い筈だ。むしろそんな理由がある方が怖い。だってその場合は更に厄介事という爆弾があるって事だし。

 既に十分難易度は高い。色んな意味で。だって何回か特級戦力によるゴリ押しという名の手順省略が行われてるからな。たぶん御使族の人達に話を聞くのに、通常空間で「第一候補」も動いてただろうし。

 だからまぁ若干不謹慎ではあるが、そろそろこう、元凶が出てこないかなー、と思う訳だよな。この下に居るのは分かってるんだから。


「むしろ、ここにいない方が問題と言いますか。いえ、他に居そうな場所も探せそうな場所もありませんから、ここしかないとは思うんですけど」


 上空に空間異常があるんだから地下にも空間異常が待ってるに決まってるじゃないか、みたいな展開にはならないといいんだけどなぁ……と思いつつ石の棒で土を水に戻して変えている手は止めて無かった訳だ。

 もちろん、警戒も切っていない。周りの召喚者プレイヤーもそうだろう。だから、ぐい、と髪の毛が上へ引っ張られた瞬間、【調律領域】が押し返されるような力を感じて、すぐ動けた。


「何か来ます!!」

「退避っ!」

「元の地上まで退避だっ!」


 声を張り上げればすぐに応じる声が続く。私が空気の足場をけって湖跡地の上空へ移動する頃には、召喚者プレイヤーは跡地内の空間から退避を完了していた。

 軽く見まわしてみれば「第四候補」の使い魔も1体残らず引き上げている。ちら、と上に目を向けると、東洋龍の姿を取る“湧水にして脈穴”の神の眷属さん達が、恐らく空間異常がある辺りに集まっていた。水の吸い上げはしているが、それはそれとしてやっぱり気になっちゃうよな。


「ま、おかげで釣り出せましたので結果オーライ、という事で」


 湖跡地に残っていた土が、倍以上の体積の砂へと変わっていく。だけでなく、砂自体が生き物のように伸びあがり、空中にまとめて浮かべられている水の塊へと伸びていった。

 やっぱりあの砂自体がモンスターだったのか? と思っている間に司令部から連絡が来て、眷属の人達へと言葉とお願いが伝えられたのだろう。大きな水の塊はそのまま、湖跡地上空を離れていった。

 もちろん砂はその後を追いかけていこうとする、の、だが。


「さて、もうひと踏ん張りです。確かに未だ得体が知れない相手ですが――文字通り手を出してきた以上は、あと少しでしょうから」


 まだ私の髪を引っ張っている(というかしがみつきに力が入っている)精霊さんに声をかけ、量を最低限まで絞っていた石の棒に流す魔力を、砂に向けてから最大まで一気に上げる。「変わらない」という特性を祝福として付与してもらったからか、私の魔力にも耐えるんだよね、これ。

 もちろんあまり長く最大出力を続けていると壊れる可能性はあるが、まぁそれはそれ。どうせ魔力を流すのを止めても壊れるんだし、この空間異常を解消したら“導岩にして風守”の神にはいつでも祝福をお願い出来るようになる。

 狙い通り、水の塊を追って地上へ、ひいては空っぽの街へと伸び上がろうとした砂が、石の棒を通して放出される魔力に触れた端から水へと戻って変わっていった。もちろんその水にも触れようとするが、それは精霊さんが操作して引き離してくれる。


「さっさとこの推定手足扱いの砂を引き剥がして、本体を引きずり出しますよ!」

「そして殴る!」

「めんどかった分も含めて殴る!」

「ボス戦じゃー!!」


 次々上がる声には同意しかない。ほんとにな。ほとんど除雪ならぬ除砂しかしてないぞ今回!

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