第1147話 39枚目:「何か」について

 んで、日曜日午前中のログイン。

 ちょっと宝の地図に心惹かれたので、対策もしっかりできている事だしとルールに「何か」の私の島への進入権を復活させてもらった。「第四候補」のゴーレムというかドールがお菓子の詰められた籠の運搬をするのに外を歩いているが、使い魔に対してお菓子を要求する事がないのは分かっている。

 イベントダンジョンを攻略、もとい行方不明者を捜索していた部隊の人達も野良ダンジョンを攻略する方に回ってもらっているし、彼らもしっかり「お菓子籠」にお菓子を詰めているので、島に少々「何か」がうろうろしていても大丈夫だろう。


『……あの巨大な塊が島の上空を通過するのに合わせて、うちの竜族の人達とピッチングマシンもどきでお菓子を投げつける? 正気ですか?』

『「第三候補」ならそう反応すると思ったであるが、正気かとまで言われるとは思っていなかったであるな』


 と思っていたのだが。私の島に「何か」が普通にうろうろしているところでも見たのか、昼前になってそろそろお昼休憩でログアウトするか、と思っていたタイミングで、そんな提案がクランメンバー専用広域チャットで届いた。


『当たり前です。それって要するに、大量の「何か」を島に招き入れるって事ですよね? 確かに今現在もお菓子の大量生産は続けていますが、もし足りなければこちらは全滅するんですよ』

『だが自力脱出できる可能性が最も高いのも「第三候補」達であろう。それに、こちらも備えはしているであるしな。無理難題を投げっぱなしではないつもりであるが』

『もちろん備えていないとは思っていませんが、だからと言って、わざわざアレが暗躍を再開したタイミングでの一時的な全滅というのはちょっとリスクが大きいかと。そのリスクを負う程の情報がこちらにはないですし』


 クランメンバー専用広域チャットなので、今日も頑張ってくれているソフィーさん達にもこの会話は聞こえている。視界の端で手は動かしながら、うんうんと頷いてくれたので、そこが疑問なのは同意見だったようだ。

 要は詳しく説明しろ、という事だ。本題から入るのは分かりやすいが、そのままの勢いで説明が置いていかれることが多々あるからな、「第一候補」の場合。


『まぁそれはそうであるな。それに我からしても、かなり相当に頭が痛い事態である』


 ……つまり、いい加減にしろ運営案件、と。「第一候補」がそういうって事はやっぱりあの「何か」神様関係だったのか。

 そこから始まった「第一候補」の説明によると、ブライアンさんを始めとしてようやく同族と出会えた「第一候補」は、情報整理ついでに会話をしたりしながら、種族的小技というか力の使い方に関するコツなんかを教わっていたようだ。

 そういう事をしている間にこのミニイベントが始まったのだが、当然竜都にもあの「何か」は降ってきた。事前に私がお料理会を開催してある程度お菓子の備蓄があったため、即座に竜都が麻痺するという事は無かったが、結構危なかったらしい。知ってる。



 それでも皇族と御使族から行方不明者を出す訳にはいかない、と、竜族の人達は忙しく動いていたそうだ。「第一候補」はその邪魔をしないように御使族の人達と大人しくしていたらしいのだが、それでもまぁ「何か」の姿ぐらいは窓から見る事が出来る。

 そしてその「何か」のシーツお化けみたいな姿を見た御使族の人達が、どうも引っかかる、という感じの話をお互い言い出し始めたんだそうだ。流石に良識を備えた人達だったので最初の一番忙しい時は言い出さなかったのだが、お菓子が無事に行き渡ってとりあえず落ち着きを取り戻したタイミングで、あの「何か」に近づいてみたい、と希望したらしい。

 それに「第一候補」もくっついていく形で同行し、その「何か」にお菓子を渡しつつじっくりと観察した結果、不明点が多い、という前提はあるものの、御使族の人達は、ある結論を出したらしい。



 で、その結論というのがだな。


『恐らく……その空間の歪みとやらの変質を利用し、神の使いが、捧げものを得る為に、ここまで足を延ばしているのではないだろうか、と、いうものであった』

『神様関係だろうなとは思ってましたが、神の使いと来ましたか……。で、どこの神の使いなんです?』

『次なる大陸は、聖域が存在する都合上、神の干渉が行いやすい土地柄であってな。特定の神話に属さぬ、概念的な神の主体となる神殿を中心とした街が、あちこちにあったそうである』

『……つまり、どの神かは分からない、と』

『で、あるな。ただしいずれにせよこちらの世界に属する神である』


 やっぱり本命に関する事をさらっと突っ込んできてたな、運営。

 なるほどしかし、向こうの大陸に残っている神か。その力が少しでも戻るのなら、まぁ悪い話ではない。というか、確かにそれぐらいのリスクを負ってでもちょっと派手にお菓子をばら撒いておくべきだ。

 なお宝の地図に関しては、「第一候補」曰く神からの贈り物がある筈との事だが、たぶん次の大陸に行ってから使う物だろう。何せ向こうの大陸から来てるんだから。


『そういう事なら致し方ありませんね。ちょっと部隊の人達を呼び戻すまで待ってください』

『うむ。こちらも準備がある故、一度休憩をはさんでからになるであろう』


 という事で、リアル時間午後2時に再集合、というのを決めて、お昼休みのログアウトだ。

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