第1105話 38枚目:島の変化

『にっ……しても、どこでこっちを見てるのかさっぱり分かんないってのは厄介だな……!』


 ドガガガガガガガ――――!! と、マシンガンか何かのように連射される巨大な槍を避けてるの台詞ではないのだが、もしかしてどこを見ているか分かったらもっと簡単に避けられるんだろうか。

 なお私はそれなりに風が当たっているが、途中でニーアさんが合流してくれたので今はそよ風程度である。……上にいる私を気遣ってだろうけど、ほぼ直線だけでだんだん精度が上がってきた槍? を避けられるって普通にすごいんだよなぁ。

 もちろん周囲に展開している竜族の人達がある程度叩き落してはくれているんだが、どうやらあの槍は問題の原因である「モンスターの『王』」の力がしっかり込められているらしく、物理であっても上手く力が通らないらしい。


「私が旗を掲げている影響下でこれって事は、影響の外だと更に危険である可能性がありますね」

「そうですね! 害意を持つ異界の存在の影響ですから、下手に受けると何が起こるか分かりませんし!」


 貫通属性もしくは防御無視属性の状態異常、っていう扱いになるんだろう。今までのパターン的に。いや、神の力で防げることを考えると、要特殊防御の方か?

 と、私は旗を掲げた状態で守られている為、負荷に耐える部分を自動回復でスルーしている以上意識的には暇だ。なので戦況の確認もあって掲示板をあちこち覗いていたのだが、ここに来て司令部からの発表があるスレッドに新しい情報が載った。

 どうやら戦線の立て直しがひと段落した為、ようやくあの島の奥地へ乗り込んで脱出した召喚者プレイヤーからの話を纏められたらしい。色んな意味で大事な情報なので、そのまま目を通す。


「……うわー……」

『お嬢?』

「どうされましたか、末姫様?」

「いえ。その。島の中心部に関する情報が発表されたので、確認していたのですが……」


 エルルは回避に忙しく、ニーアさんも私の風圧軽減だけでなく、エルルの回避補助もしている。なので私が口頭で伝えるしかないのだが、えーとちょっと待てよ。どう言ったもんか。そのまま言えばいいんだろうけど。


「……まず前提として、あの島に動物の気配が欠片も無かったのは知っていますよね?」

「そう聞いていますね! 動くものが何もなくて不気味だったとか!」

「そしてあの島は、元々の形からあぁいう風に、異界からの侵略者によって形を変えられた、というのもまず確定しています」

「そうですね! 一体どのような力が行使されたかは推測の内ですが!」


 前提を確認しつつ、もう一度載せられた情報を確認する。どうやら内部に突入した召喚者プレイヤーはしっかりスクリーンショットも撮影していたようで、それもあげられていた。

 この時点で勘の良い人は大体察しただろう。……そう。ここであの、SAN値を削りに来てる、発言になる訳だ。


「島に居た動物は、形を変えられた上で島の中心部に集められていたそうです。島をあの形に変えたのと、推定同じ力によって。……島全体をあのように動かす、動力として」


 方向性としては「蝕み毒する異界の喰王」に近いだろう。だがとにかく無作為に何もかもを混ぜ合わせた上で、ある程度は「元の形」を保っていた……その分だけ不気味さが増していたのは確かだが……あちらと違い、こちらは「目的の形と性質の為」に形を変えている。

 侵食したり取り込んだりした訳ではなく、そのまま形が変わってるっていうのはまた違う不気味さと嫌悪感があるよね。しかも元の形とかけ離れた無機物っぽい形、「遍く染める異界の僭王」とも違う歯車やギアといった系統で、何より極めつけがだな。


「ど、動力ですか……?」

「えぇ。恐らくこの攻撃も、その形を変えられた動物たちがやっているんでしょう。……そして動く為のもの、という時点で薄々分かる通り、形が原形を残さない程度に変わっても、生きている、と」


 ちなみに内部に突入した召喚者プレイヤーは、島にいたのだろう動物たちの鼓動が多重奏のように島の中心部にあった空間に響いているのを聞いている。……生きたまま機械部品に変えられた動物の群れによる機構。そりゃSAN値も削れるわぁ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る