第1080話 37枚目:変異と応援

 叫んでも現実(ゲームだけど)は変わらない。その辺ちゃんと出来る召喚者プレイヤー達なので、叫びながらでも即座に移動の準備を整えていた。もちろん私も領域スキルの範囲と強度を上げて、全員にバフをかける事で移動を支援する。

 残りログイン時間を確認すると、あと1時間半といったところだ。他の召喚者プレイヤーはもうちょっと余裕がある筈だが、まぁでも時間的には佳境でいい感じだろう。余所から見ていれば。

 当事者としては勘弁してほしいんだけどな。絶対さっきので終わったと思ったからさ……そこから第二ラウンド、実質本戦が始まるとか、かなり本気で止めてほしい。


「まぁ、同時に相手しないとヤバそう、という予想は大当たりだったわけですが……こっちはこっちですごい事になってますね」


 とはいえ、相手の体力は相当に削れた状態の筈だから、そう時間はかからない……と、思うんだが。たぶん。恐らく。なんて思いながら踏み込んだ「拉ぎ停める異界の塞王」のイベントダンジョン最奥は、中々ひどい事になっていた。

 たぶんこちらも地形を破壊し尽くしたのだろう。さほど距離を感じない、白いばかりの平坦な地面の先では、今での大規模な戦いが行われているのが見える。



 最奥から塔型の巨大なモンスターが現れ、モンスターを召喚しながら外を目指していたというところまでは聞いている。そこからは「蝕み毒する異界の喰王」との戦闘に全力だったからな。

 大急ぎでの移動だったが、カバーさんが手短に説明してくれたところによると、どうやらこちらの本体はチェスの駒あるいはシンプルな玉璽のような形をしているらしい。遠目から見ると、あの少女の形をしたフィギュア(台付き)にも見えるとの事。

 どこまで自己顕示欲が強いんだ、と思ったが、どうやら体力バーの減り方や位置からして、核はその台座の方らしい。つまり、あれは文字通りお気に入りの形って事のようだ。



 取り巻きのモンスターの形は、塔型をメインとしてチェスの駒じみたもので、召喚能力はほぼ同じ。後は時々上から白い板が降ってきて、それに潰されると「僕」と名の付くモンスターに変えられ、その場で人形型モンスターを召喚しまくるとの事。まぁ恐らく、「手」と同じだろう。

 地面に影が出来るし、板の大きさ自体は2m四方なので、知っててちゃんと身構えていれば避けるのはそう難しくはない。ただし乱戦状態になると話は別で、性質が変わったタイミングの混乱で結構な人数が「僕化」してしまったようだ。

 司令部が急いで立て直し、「第二候補」が「僕化」したモンスターを素早く処理したものの、人数がガクッと減ったのは間違いない。だから大急ぎで応援を呼んだ、ということだったようだ。


「そして現在、無機質な像のような姿は、妙に生物的な気配を纏って動きが非常に滑らかになったと。あぁ、モンスターの中にも「手」を生やした個体がいますね。まだ使い慣れていない感があるのは幸いでしょうか」


 領域スキルの関係で、「第一候補」と「第二候補」は同じ方向にいるらしい。少しずれた角度の奥に「第五候補」がいるとの事で、私はその反対側に、「第四候補」は「第五候補」の対面に移動する事になった。

 とはいえ、表示されている体力バーを見る限り、核のそれも3割を切っている。上の人形だかなんだかはあちこち欠けているようで、そちらの体力バーは半分を切ったところだった。

 まぁこっちの方が基本の防御力が高いからな。再生力は火力で押し潰せるし、私の領域スキルと種族特性は、味方へのバフだけではなく敵へのデバフも積み込む。それが地味に効いていたのだろう。


「全く本当に、最後の最後、残滓や影響ですら厄介ですね……」


 前線はまだ混乱が続いているらしく、動きがあちこち綻んだようにちぐはぐだ。司令部からの指示も飛んでいるが、聞いている余裕がないか、指示が現場の動きに間に合っていないらしい。

 まぁそれはそうだ。だって今まで「拉ぎ停める異界の塞王」の要注意攻撃は、上空からだった。その前兆が現れるのは自らの足元であり、モンスターは多少接触されても問題なかったのだ。

 それが、モンスターに触れられたら「僕化」する、という条件がいきなり付けたされたら、パニックにもなるだろう。警戒しなければならない方向がいきなり増えるのは、かなり大変だ。


「まして、あのシステムメールで思考が止まった人も多いでしょうし」


 正直、私だってまだ完全に落ち着いた訳じゃない。まだ動揺は続いている。しかし倒した事で安全地帯に居て、かつ応援に行くという明確な目的と、移動時間というクールダウン出来る時間があったから、どうにか周りが見える程度にはなっているだけだ。

 それを、激しい戦闘をしながらやれ、というのは、酷だろう。今もちょいちょい、運営に対する叫びが混ざって聞こえるし。そういう意味での混乱もしているなら、戦線が維持できているだけ上等なのだ。

 だがまぁ、それはそれとして。


「これで! 本当に、最後にしますよ!!」

「「「おぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」


 いい加減にしろ。と、運営に抗議メールを送る為にも、「拉ぎ停める異界の塞王」はこのまま、押し切って撃破するけどな!

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