第1045話 37枚目:スイッチの効果

 タイミング的に私達の姿が見えたらしい召喚者プレイヤーのパーティにも簡単に事情を伝え、彼らが入り口の方へ移動したところで、ソフィーネさんがスイッチを押した。

 裏返した状態でスイッチが押された途端、ふらふらしていた矢印が明確にどこかを示し始める。しかし見ている間に結構な速度で角度が変わるので、探すべき場所は相当な高速移動をしているようだ。

 そしてこちらも予想通り、私はまだ【調律領域】を展開しなおしてないにもかかわらず、モンスターがこちらへ殺到してきた。どうせ来るなら同じことだと即座に【調律領域】を展開し、全員のフォローに入る。


「!? すみません、緊急連絡です!」

「分かりました!」


 ここまで来て出し惜しみする理由もない、と、割と全力でモンスターの群れを薙ぎ払いながらソフィーネさんの手にある指針に従って移動していたのだが、途中でカバーさんからストップがかかった。

 緊急連絡なら仕方ない、と、直線通路へ移動してしばらくは防御に徹する事にする。しかしこのタイミングでの緊急連絡か。何だか嫌な予感がするな? 主に思いっきり原因になっている感じがして。

 音叉の方ではなく、ハンドベル型の共鳴石の音を聞き取り、司令部からの緊急連絡を解読する。その内容は、というと。


「――最奥の領域を構築する建造物から、巨大モンスターが発生する頻度が急上昇したそうです! 現在対応していますが、撃破が間に合わず迷路の領域が再構築されつつあるとの事! 現在戦力を再集結中、との事ですが……」


 つまり、特級戦力の招集がかかっているのだろう。どうしてそうなった? という心当たりは、まぁ当然ながら、あのスイッチしかない。内部でもモンスターが大量発生する事と言い、リソースの吐き出しを促進する効果だったのか?

 もしくは、こうしている今も高速で動いている(らしい)目標地点のスピードは、残りリソースの量に依存するのかもしれない。つまりある程度以下にならないと、到底捕まえられないって事だな。

 ていう事は、だ。


「カバーさん、返信を! ……私達は、内部で探索を続行します! どうにか外の戦力でしのいでください、と!」

「お嬢!?」

「末姫様!?」


 まぁ当然そうなるが、私の判断はこのまま続行だった。そりゃそうだ。だってこの急激なリソースの吐き出し、あるいは「拉ぎ停める異界の塞王」側からの攻勢とも取れる動きは、あのスイッチが引き金になっている。

 どこまでが「拉ぎ停める異界の塞王」の用意した罠で、どこからがこちらの神々の干渉なのかは分からないが、間違いないのは、あのスイッチは一度押したら押しっぱなしにしなきゃいけないって事だ。


「あのスイッチの発見難易度が高かったのはよく分かっているでしょう。ここで慌てて外に釣り出されたら、次を見つける難易度はさらに高くなるに決まっています」

「だが!」

「それにこの迷路内部で、この規模のモンスターの群れと長時間戦い続けられ、なおかつ外に迷路の領域が再設置されても問題なく帰還できるのは私達だけです」

「しかし末姫様、私達でも脱出まで含めると支障がないとは言い切れませんよ!? 末姫様の安全は絶対に確保しますけれど!」


 当然ながらエルルとニーアさんからは猛反対があったが、ダメだ。ここは。内部で引き金を引いた、私達、というか、私が特級戦力として踏ん張らなきゃいけない場面だ。

 何故かって? そんなの決まってるだろう。


「タイミングが、既に、ギリギリなんです」


 今は。8月最後の土曜日の、午後なんだぞ?


「今。ここで。相手のリソースを、せめて本体が出てくるまで削り切らなければ。そうでなければ、最悪。取り逃がす事にもなりかねないんです」


 それはつまり。ここで決めなきゃ……倒せないじゃないか。

 ここまで削って、弱体化させて、追い込んで、追い詰めて。ようやく王手が掛けられそうなのに。やっと直接殴れる機会が目の前までやって来たのに。

 竜族の、1万年に及ぶ防衛戦。リアル1年をかけた戦争の、本当に長い戦いだったその結末が、見えてきているんだぞ?


「――――逃がしません」


 気合、及び、覚悟と共に。【調律領域】に、最大展開の【王権領域】を重ねる。まだまだ相手の領域だからか、通常展開できる範囲の筈なのに、ある程度リソースが削れている感じがする。


「絶っっっ対に、逃がしはしません! ここで確実に、沈めます! その為には、ここで引く訳には、いかないんです!」


 だが。

 そんな事は、承知の上だ。


「相手の方から血肉を削ってくれるんですから、これはピンチではなくチャンスです! このまま、丸裸になるまで削り切ります!!」


 言い切ると同時、【無音詠唱】で進めていた無数の氷の槍を、後ろから来ていたモンスターの群れに叩きこんだ。

 それにこれは、ある意味リソースの食らい合いだしな。ステータスの暴力、及び、回復力の権化として、負けてやるわけにはいかないんだよ。

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