第1029話 37枚目:要救助者発見

 周囲に転がる瘤、もしくは卵を一掃してから、半分以上壁に埋まっていたらしい瘤を割ってもらうと、中からぐったりした竜族の人が出てきた。予想通り過ぎて何て言ったらいいか。

 とりあえず【調律領域】を展開……する前に、古代魔法のお掃除セットを連打してみる。ボロボロなのは変わらないが、粘液の類は綺麗になった。やっぱり便利だなこれ。

 どうやら意識がないようなので、エルルが【人化】を解いて抱え、私とルイシャンが壁と天井に大穴を開ける事で脱出する事にする。……領域スキルはちょっと待とう。なんか嫌な予感するから。


「大ダメージを入れるといきなり内部が変化しましたね」

『刺激に反応するとか、本当に生き物みたいだな……』


 どうやら進化して更に一回り大きくなっていたらしいエルルは、どうにか同族を抱えた状態でも飛べるようだ。その分部屋の中ではかなり狭そうにしていたが、まぁそれは仕方ない。

 いやー、ルイシャンの雷に加えて、私も麻痺の追加効果が乗る雷系の魔法を叩き込んだんだけど、それで大正解だったらしい。ぶわっ、と脈打っていた内部が充血したみたいになって、脱出してから数秒で麻痺が切れたのか、ざわざわと内部を粘液まみれにしながら全体がうごめき始めたから。

 流石に地下は無いだろうって事で、上空に逃げてからルイシャンと一緒に攻撃を叩き込み、しっかり焼いておく。しかしこれは、一般召喚者プレイヤーが探索に入るときは要検証だな。


「というか、攻撃に反応したって事は、迂闊に【調律領域】を内部で展開しなくて良かったですね。範囲に入ったら確実にデバフ負荷が乗るでしょうし、それが広域攻撃だと判断されていたら救出どころではありませんでしたから」

『そうだな。とりあえず、まずはこいつを連れて帰ってからだ』

「報告もしなければいけませんしね」


 という事で、そのまま司令部のある中継拠点まで帰還する。転移地点にもなってるから、ここまでくれば意識のない竜族の人でも脱出できるからね。もちろん道中では【調律領域】を展開し、可能な限りの回復を手伝っておく。

 司令部に合流して、カバーさんに報告というか説明。同じく報告に来ていたか、あるいは中継拠点の防衛戦力として待機していたらしい召喚者プレイヤーが、話を零れ聞いたようで「うへぇ……」って顔をしていた。


「なるほど。ちぃ姫さん、確認ありがとうございました。他にも見つかった場合は検証しますが、可能な限りはお任せしてもよろしいでしょうか」

「動ける間ならやりましょう。エルルは私がログアウトしている寝ている間でも動けると思いますが、脱出まで1人でするのはちょっと厳しいでしょうし」

「そうですね。話を聞く限り、脱出の際の攻撃には可能な限りの行動阻害系状態異常を乗せた方が良さそうです」


 何かそういうところも生き物なんだよなー。罠というか、待機型の狩りをする生き物ってあんな感じじゃないだろうか。チョウチンアンコウとか、ハエトリグサとか。自分が食われる側になるとは思わなかったけど。

 というか、今更ながらあれだけ状態異常を撒き散らす癖に、割とあっさり状態異常は通るんだな。付与する力と耐性は別物だっていう良い例なのかも知れない。

 ともかく。要救助者がいるなら積極的に探していくべきだな。そしてそのためには地形を派手に破壊する必要がある訳だ。


「お嬢、今何考えた?」

「要救助者の速やかな救助方法ですが」


 嘘ではないよ。要救助者を助けるためには相手のリソースを削る事が必須で、相手のリソースを削るには地形を壊すのが一番手っ取り早いんだから。

 ……「第四候補」と協力して、スライム爆撃をもう一回してみるかとか思ってないよ? バフを乗せまくったエルルの一撃で十分だし。

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