第1012話 37枚目:推測済みの想定外

 ダンジョン内部での連絡手段がある事もあり、探索は実にスムーズに進んでいると言っていいだろう。それでも階段すら見つかっていないが。

 ただ検証班の人達曰く、どちらのイベントダンジョン(?)も、入り口から奥に向かって、本当に極僅かだが、傾斜がついているらしい。周りを静かにした上で罠がない床にガラス玉を置いたら、一定方向に転がっていくんだそうだ。

 なので、階段がなく最奥まで一続き、という可能性が浮上している。……どうかなー。そんなある意味わかりにくい構造にするかなー。と、私はちょっと疑っているが。


「まぁどちらにせよ、関門的な意味でボスぐらいはいるでしょう」

「そうですね。これまでに分かっている事から、本当にただ内部が広すぎるだけ、という可能性も十分ありますし」


 それはそれで嫌な話なのだが、頑張って探索を進めるしかない。どうにか奥に進めたら、神々がいい感じに後押ししてくれるだろう。たぶん。おそらく。

 という事でイベント開始から早4日。


「閉鎖空間で防衛戦というのもなかなか訳が分からない状態ですね?」

「意外と余裕がありますね末姫様」

「もう少し何か状況が違えば多少は慌てていたかも知れませんが、【王権領域】が展開できた上にエルルがいますから」

「まぁ確かに、あの様子を見てしまうと慌てる必要を感じません!」


 初日を除いて大体リアル1日に1つ中継拠点候補地が見つかる感じだったから、3つ目か。体調不良を撒き散らす方のイベントダンジョンに資材を運びに行ったら、こっち用の緊急連絡ハンドベルがいきなり鳴り始めたんだよね。

 場所が一番奥の中継拠点候補地の近くだってわかった時点で、ルートも分かってたし緊急事態だし、1個目の中継拠点を過ぎたところで休憩も取ったばかりだったから、そのまま2個目の中継拠点をスルーして急いで合流した訳だよ。

 その時点でも、中継拠点は3分の1ぐらいは出来てたかな。その状態で慌てて迎撃態勢を整えていたところだったから、建材を出しつつ詳しい事を聞いたら。


「しかし、本当に超が付く大物が、モンスターの群れを引き連れ、かつモンスターを出現させる能力付きで奥からやってくるとは」

「それを予想できた末姫様方も素晴らしい推察力ですね!」

「今までが今までだったので……」


 やりやがったな運営、の合唱が(掲示板上で)響いたのは言うまでもない。なんだよ、【人化】を解いた竜族の人が楽々通れる、それこそしっかり整備された3車線道路みたいなめっちゃ広い通路を、壁にも天井にもこすりながら進んでくるサイズって。

 ちなみに中継拠点候補地で【王権領域】が展開できるのは仕様だ。バックストーリー的にはたぶん、神々が打ち込んだ楔的な場所だからだろう。転移地点に選べる予定でもあるから、神の力が通りやすい設定になっている、という感じじゃないだろうか。

 ともかく。どうにか通路で遅滞戦闘をしながらこの中継拠点の完成度を上げつつ、迎撃の用意をしたところで合流したのが私達だったので、とりあえず私が候補地である大きな部屋の真ん中で、全力の【王権領域】を展開。その辺りでモンスターの群れの頭が到着した。……のだが。


「あ、終わりましたか」

「しかしこれ、正面から普通に相手をしていたら被害がすごい事になっていたのではないでしょうか」

「なっていたでしょうね。間に合って良かった」


 まぁ、うん。『勇者』になったエルルは強かった。まるで相手にならなかったもんな。モンスターの群れも、その大元となっている大物も。流石に大物は秒殺、とはいかなかったが、それでも、一方的な戦いってやつのお手本みたいな状態だったよ。もちろん有利な側がエルル。

 まさしく完封状態で、召喚者プレイヤーも零れたモンスターを叩くぐらいしかやる事がなかったから、途中から拠点構築の方の人手を増やしてたし。気持ちはとてもよく分かるけど。


「どうやらあの巨大なモンスターは、倒してもその体が残っている限り状態異常を振りまくのを止めないようです。解体の手伝いをしてきます」

「分かりました」


 ……そんなおまけも分かったが、本当に面倒だな。

 しかしそれにしても、これは、両方同時に出てこられると流石に厳しいものがあるんじゃないだろうか。『勇者』補正も込みだと、今のエルルは相当強いぞ? ステータス自体はヒラニヤークシャ(魚)を殴り飛ばした時の私、とまではいかないかも知れないが、戦闘経験が違うからな。

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