第1013話 37枚目:既視感のある大物

 最初にイベントダンジョンの未探索部分から大物が湧いて出た……気配感知系の召喚者プレイヤー曰く、本当に「反応が湧いた」らしい……のが、木曜日の夜だった。

 で、翌日金曜日には、昼前と夜の2回出現が確認された。エルルと一緒に急行してなんとか倒したが、予想通り防衛戦はかなり厳しかったようだ。

 このパターンはもしかしなくても……と、多くの召喚者プレイヤー及び司令部は予想したらしく、金曜日の夜における残りログイン時間は、全部建材の運搬に突っ込むことになった。当然、中継拠点を強化する為だ。


「……やっぱりか」


 そして土曜日。朝起きてまずフリアドの情報を外部掲示板で確認したところ、日付変更線直後に大物が出現したそうだ。生活リズムを崩すと元に戻せる自信がないので、休みであっても平日と同じペースを維持している。

 だから健康的な時間には目覚めている訳で、ここから着替えたり朝食を食べたりしてからゲーム、というのがいつものパターンなのだが……。


「まぁまずあのでっかい流氷と同じパターンだろうし。という事は、そろそろ次が来ててもおかしくないか。……エルルでも対応できると思うけど、やっぱり移動距離がネックだよな。早く転移できるようにならないもんか」


 たぶん、内部時間の1日に1回、あの大物が出現するんじゃないかな。お盆休みに突入して、一気に召喚者プレイヤーの人数も増えたところの筈だし……。昨日と一昨日は、その前振りだったとかが普通にあり得るんだよなぁ。




 で。


「やっぱりいつかのモンスターの群れが乗った流氷と同じパターンでしたか。エルル、疲れてません?」

「大丈夫だ。むしろ加減が難しいから、練習相手としてはでかくて鈍い方がいい」


 実に頼もしいエルルの活躍によって、なんとか中継拠点が壊滅、という事態は避けられたらしい。つまりエルルがいなかったらヤバかったって事なんだけど。相変わらず難易度が高いんだよな。

 しかも昨日と一昨日はイベントダンジョンのどっちか片方ずつに出ていたのが、今日になってからは両方同時に出てきてるときた。だから、移動が大変なんだよ。エルルは自分の足で走ってるんだぞ。下手な生き物に乗るよりずっと速いのは知ってるけど。

 ただ、朗報、と言っていいのだろうか。最前線の押し込みは同じ調子で続いていたので、現在一番奥にある中継拠点は4個目のものとなる。だから1個目の中継拠点はだいぶ手前であり、拠点というより、休憩所と資材置き場としての役割が強くなっていた。


「それが、大物を倒すと、目に見えて異界の理の影響が軽減されてきた、となると……恐らく、何体か倒せば、転移地点として使えるようになるのでしょう。もちろん、それまで大物を通さず、防ぎきれれば、の話でしょうけど」


 何体か、というか、リアル時間1日、今のペースだと4体倒したら、だろうけど。転移の方法にもよるとはいえ、イベントダンジョン同士の距離がまた遠い上に、間に壁型砦があるからな。必要な事とは言え、そこを走って救援に間に合ったエルルは本当にすごい。

 それが、大神殿を経由すれば転移で行き来できる、とかになれば、だいぶマシになる筈だ。少なくとも、地上を走る時間が短縮できるから。……その分、イベントダンジョン内部の距離は伸びるとしても、だ。


「最前線までの距離、というか、この分だと中継拠点の数が一定以下になったら、転移が出来なくなりそうですし。最前線の防衛がより重要になってきますか……」


 まぁこの程度の事なら、司令部の人達もとっくに思いついてるだろうけど。対策はどうするんだろうね。エルルを防衛戦力としてどっちかに常駐させて、もう片方に召喚者プレイヤーを偏らせるとかかな。それとも他の『勇者』にも声をかけるんだろうか。


「エルル。ちょっとでも無理なところがあったら言ってくださいね」

「お嬢がそれを言うのか……」

「私は他に手段がある状態で無理を飲み込むことはしません。というか、普段から周りに相談と提案をしてから動いている筈ですが」

「それはそうなんだが、お嬢は無理の基準が高すぎるからな。お嬢でも無理の域に入る頃には他の手段がない状態だろ」

「出来るだけ無理はしてないんですよ?」

「普通は無理っていう域を軽く超えて動いてるんだぞって言ってる」


 まぁ特級戦力だし。間違いなくゲテモノピエロにも完全な敵認定されてるし。それ以前に召喚者プレイヤーなので。

 これに関してのお説教はだいぶ減ったと思ったのだが、諦めた訳ではなかったようだ。とはいえ、エルルの理想あるいは常識通りに動かず大人しくしているのは、それこそ無理ってもんだけど。

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