第997話 35枚目:同時多発状況

 空は完全に明るく白いが、今は夜中だ。リアル夜中に無理をして起きているというのもあって、体調的にも(後の事を考えると)心理的にもコンディションは最悪に近い。

 それでも領域スキルを展開し、自己バフを目一杯にのせている。地道にステータスを上げていたのもあって、今のところ異形の群れと肉の柱……案の定“破滅の神々”の使役する存在となった元神官の住民と新人召喚者プレイヤーが相手であっても、一応相手をすることが出来ていた。

 今のところ分かっているのは、肉の柱は近くにいる異形の傷を癒し、復活させる事。異形は肉の柱をかばう行動をする事。その攻撃には竜都の大陸で相手をしている2種類の「モンスターの『王』」が使う状態異常が乗っている事。そして、


「大規模攻撃の禁止、というか、単体攻撃以外の無効って感じですね。これは。領域というか儀式と別だったとは思いませんでした」


 魔法を待機させる事は出来るが、攻撃範囲が単体に限定されていない・・・アビリティはその全てが不発だった。なので膠着状態に陥っているという訳だ。

 異形を倒してから肉の柱が復活させるまでにはタイムラグがある。私の攻撃力を考えれば掠っても致命傷だから倒し尽くすのはさほど難しくない筈なのだが、最後のを倒す頃には最初のが復活しているのだ。文字通りキリがない。

 だから肉の柱を倒したいんだが、さっきの攻撃制限がある上に異形が文字通り身を挺して肉の柱を庇うんだ。あまり攻撃を続けると袋叩きにされてしまうので、攻撃を食らわないことに重点を置いている。


「まぁ時間さえ稼げばどうにかなる訳ですし。カバーさんがこの結界の源を探してくれている筈ですし。今も空間の軋む音が聞こえて揺れを感じるって事は、しつこく儀式を動かそうとしてるって事ですし。足止め出来ているなら別にそれでいいんですけど」


 しかし本来なら、ふわもこ装備とはいえ私相手に傷をつけるほどの攻撃力があるとは思えないんだけどな。私が目で見て対処できてるって事は、ステータスは元となった召喚者プレイヤー準拠の筈なんだから。

 神の力でなんか、通常の防御が効かない特殊攻撃になってるとか、それとも防御無視状態になってるのかな。かすり傷でも状態異常が入るから、すぐ治しているとはいえ累計で結構な深度が積み込まれてると思うんだけど。

 いやー、回復力と耐性はスキルのままで良かったよね。私はまとめて相手している異形だが、たぶんこれ一般召喚者プレイヤーだと1体でも十分な脅威だぞ。


「というか、問題は今この現状より、あの装備ですよね。他の場所でも配られていて、同じタイミングで仕掛けが起動していたら、場所によっては大惨事なのでは――」

『すみませんちぃ姫さん、緊急連絡です。返事は結構ですのでこのまま続けます』


 とか思っていると、カバーさんからのウィスパーだ。うん。嫌な予感しかしないな?


『現在ちぃ姫さんが相手をしている肉の柱と異形ですが、『スターティア』を中心に展開していた新人召喚者プレイヤーの集団が同じように変異したそうです。混乱状態なので情報が集まっていませんが、そちらの対処に手を取られているため、応援の到着は遅れるとの事でした』


 やっぱりか。としか言いようがない。あのゲテモノピエロ、新人を(生贄的な意味で)餌食にしやがった。やるとは思ってたけど。


『ちなみに変異した新人召喚者プレイヤー自身は初期装備で復活する事が確認されていて、氷の大地に来ていた方々も後方の陣地で復活済みです。現在は全員を確認したので復活陣地を破壊し、復活拠点の場所を聞いて戻って頂きました』


 (死に)戻って頂きました、な。まぁそれが一番手っ取り早いか。……紛れ込んでない、とは言い切れない以上、神殿に連れてはいる訳にはいかないもんな。仕方ない。


『そして、どうやら一緒に付いてきていた神官の方々は真っ当らしく、現在アザラシ出島まで護衛しつつ移動中です。今少しお時間をいただきます。以上です』


 アザラシ出島っていうのはあれだ。「第五候補」と合流したあと、ヒラニヤークシャ(魚)と戦うのに作った砦風の場所。海流の関係で色々なものが集まるので、その確認をする拠点として渡鯨族と冷人族の人達が時々使っているらしい。

 まぁあそこなら一応寒さも多少はマシだし、建物もあるし、山火石は使えないが普通の焚火ぐらいならできる。あそこまで行けば、真っ当な神官なら大丈夫だろう。

 という事は、応援もまだこないし、カバーさんが戻ってくるにももうちょっとかかるか。……ルシルぐらい一緒にいてもらえば良かったかな。

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