第996話 35枚目:段階進行

 まぁ、襲撃を主導したのが誰か分かれば、理由にもおおよそ見当はつく。つまり、本気で「エルルの進化」を邪魔しに来た訳だ。迷惑極まりないんだけどな。それがあの、ジャーメイン神父という人の正義なんだろう。

 とはいえ、誘導のきっかけが掲示板であったこと。用意された大量の装備。この辺りから、あのゲテモノピエロが後ろで糸を引いているのは確定しているんだが。どうせ逃げ延びた先で隠遁するのにも一枚噛んでるだろうし。

 それでこのタイミング、という事は、そろそろ隠すのも限界だったのかもしれないな。フリアド世界の罪に時効はない。渡鯨族の襲撃を主導した、ともなれば、それは熱心に探されていただろうし。


「どうせ捕まるなら、最後に騒動を起こしてから。……という有効活用。無駄のない事です」


 新人向けの装備も、4月に始めた新人が作って失敗した弱い装備が叩き売られている。それを集めて適当に強化すれば、あれぐらいになるだろう。

 で。ゲテモノピエロが噛んでるってことは、だ。


「ならぬ。ならぬのだ。化け物には粛清を。人間には救済を。それ以外は! あってはならぬのだぁぁああああああqwsでfrgtyhじゅk!!!」

「! いけません、全員離れて――」


 カバーさんが淡々と指摘していき、それに対して激高したジャーエイン神父の叫びが、途中から人ならぬものに変わった。それに素早くカバーさんは後ろに下がり、周囲にいる新人召喚者プレイヤーに警告を飛ばす。

 が。私が推測した通りなら、彼らが身に着けている装備にはあの邪神の信徒がかかわっている。そこに仕掛けがないか、と言われれば……


「ひっ、なんだこれぇえええぇえええっ!?」

「やっ、やだっ! 気持ち悪ゃぁあああああっ!?」


 ……まぁ、仕掛けてない訳がないよな。

 柱から顔を出して見えたのは、恐らくジャーメイン神父だったらしい、司祭服の引っかかった肉の柱を中心に、新人召喚者プレイヤー達の装備が溶けるように形を変え、着ている召喚者プレイヤーを襲っている光景だった。

 うっわえぐい、と思っている間に、肉の柱を中心にした力場が展開される気配がする。最悪。本当に最悪だ。何がって、その発想が。正直、効率的ではある、と、同意できる部分がある事も勘弁してほしい。


「――ゲテモノも大概にしてほしいものです」

「pォキジュhygtfdxsザftgyhjlyyyyyy!!?」

「姫さん!?」

「なんでそんな真っただ中に突っ込むんですか末姫様!」

「力場の展開出力勝負だからですね。カバーさん、応援をお願いします。流石にこれは手に余る」

「了解しました」


 ので。肉の柱の目の前まで飛び出し、【調律領域】と【王権領域】を、自分の前に中心を置く形で最大展開した。車のブレーキを何十台分も重ねたような音が響き、地面は揺れていないのに大きな揺れを感じる。前にもあったな、この感じ。

 あの時はネレイちゃんを生贄にした儀式を、動き始めで潰したんだったな。そんで、あのゲテモノピエロと、最初に対面したのがその時だった。……本当に、深追いして一発だけでも殴っておくんだった。それ以降一切姿を見ていないから。

 話を戻そう。今こうやって干渉……してきたのか、何か仕込んでいたトリガーが発動しただけなのかは分からないが、ゲテモノピエロが儀式を行おうとした、これが確定したって事は。


「皆は神殿の周辺警戒を。たぶんまだ終わらないというか、むしろここからが本番です」


 恐らく、ここの戦闘はひたすら時間がかかる。その間に神殿へ、もっといえば奥にいるエルルにちょっかいを出すのが相手の本命だろう。そしてそれは通常戦力で防ぐのは難しい筈だ。特に冷人族の人達に対しては、完全に対策しているだろうし。


「ん」

「(・∀・)ノ」

「いやそんなこと言われても!?」

「サーニャさんとニーアさんも動いてくださいー」

「そうなんだけどっ!?」

「現状では周辺警戒の重要度の方が高いですからね!」

「いえですが末姫様をお1人にはっ!?」

「ここに残っても邪魔になるとは言わないが、進化の邪魔が相手の狙いって判断なんだろ!」

「しかしそれでもですね!?」

「そうだねぇ。そして、相手の狙いを阻止する方が優先度が高い、まぁ当然の話だよぉ」

「それじゃ担いで運ぼうカ?」

「だからって何でそうなるかな!?」

「それとも台車にのせるメェ?」

「靴に車輪をつけちゃうメェ?」

「はいそこの双子遊ぶのはほどほどにお願いします」

「「メッメッメ~」」


 なおショーナさんも来ているが、彼女は魔族で空間的な警戒と防御の要である。なので、ヘルマちゃんとアリカさんを守るのも兼ねて神殿の中から動いていない筈だ。まぁ空間的な異常は感知してる筈だから、既に気づいているだろうけど。


「サーニャ、ニーアさん。任せました・・・・・

「っ!! ――あぁもう、姫さんそれは卑怯だよっ!?」

「私達が逆らえないの分かってて言ってますもんね! あとでエルルさんと一緒にお説教ですよ末姫様っ!」


 さて、これで神殿への直接侵入は大丈夫だろう。たぶん。

 ……私が、この、上の方に神父服を引っかけた肉の柱と、その取り巻きとなった手足が複数の異形。元ジャーメイン神父と、新人召喚者プレイヤーの集団を、応援が来るまで足止めし続けられれば、だが。

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