第994話 35枚目:妨害迎撃

 明らかにエルルの進化に対する妨害な訳だが、大規模な魔法を妨害する結界とやらが張られているらしいせいで、無限かつ即時復活を続ける召喚者プレイヤーの群れに対して、押しきれていないという状態の様だ。

 頑張って目を凝らしてみると、なるほど、確かになんか魔力の流れっぽいものが神殿の直前までを覆っているのが見える。これが結界だろうか。……それにしては、結構嫌な感じがするんだけど。

 ここで掲示板をチェック。何かそれっぽい動きはないか、と探すことしばし。


「……これは」


 見つけたのは、新人召喚者プレイヤー向けの便利情報をまとめた掲示板だった。その中にあった「スキルレベルは格上を相手にした方が上がりやすい」という文章の下には、スキルレベルに対応したモンスターや敵の一覧が載っている。

 ここまでならいいんだが、この一覧を引用して新人へのアドバイスをしている書き込みのいくつかで、他のスレッドに誘導している書き込みがあった。書き込み時間は、直前の土曜日いっぱいで複数回となっている。

 どうやら鍵スレッドらしくその内容を見ることは出来なかったのだが、ここで改めてこちらへ襲い掛かってきている召喚者プレイヤーを確認する。特に瞬殺されてはすぐに戻ってきている人を中心に。


「……そもそも長く活動するような装備ではありませんね。耐久度もあまり気にしている様子がない。死に戻って全回復したところで装備の耐久度は減っている筈ですが、その様子もない」


 まぁ、どう見ても「装備だけを与えられた新人」だ。装備に関しては「与えられ続けている」といった方が正しいかもしれないが。「第二候補」を抑える目的で私が提案した集団戦みたいな構図か?


「こんな七面倒なことをするのは、あのゲテモノピエロぐらいでしょうしねぇ……」


 とりあえず戦っている召喚者プレイヤーの顔が見える形でスクリーンショットを連写する。ははは、普通に映るとか警戒が薄いな。私の視力依存だからくっきり撮れたぞ?

 そこまでやって、後ろを振り向く。にこ! と力強く微笑んでいるカバーさんにスクリーンショットを添付したメールを送り、魔法を使うときに使っている杖を取り出し、「月燐石のネックレス・幸」の鎖を持ち手に巻いた。


「とりあえず、まとめて凍らせますけどいいですよね?」

「はい。証拠としては十分です。既に関係者には迷惑行為として知らせておきました」

「ありがとうございます」


 結界と思われる魔力の流れの範囲は分かった。神殿がそこに含まれていないのも分かっているし、対人戦だからか高さがそんなにないのも分かっている。だって見えているからね。

 なのでカバーさんに確認を取り、どこからも文句は来ないし、来たところで返り討ちにして封殺するというお返事をもらったところでまずは自己バフをかける。

 そのうえで入り口から少し離れた大きな窓、というか、渡り廊下みたいになっている場所へ移動。角度的に問題がないことを確認して、詠唱開始だ。


「[――それは雫であれど深き海

 渦巻き呑み込み、沈めて封ぜよ]」


 ちなみに改めて確認しておくと、現在位置は世界単位での北の果てだ。数分でも液体を放置していれば凍り付く、耐性スキルがあって装備を整えていても長居は出来ない、氷と雪ばかりな極寒の地である。

 詠唱した時点で、うちの子は私が大技を用意したのが分かったのだろう。一気に攻勢をかけ、吹き飛ばし系の技を多用し、緩く広がりかけていた召喚者プレイヤーの群れを一塊に押し込み返していた。


「[水面の底の底にて、ただ眠れ]――」


 そして私が狙いをつけた時点で、全員そろって大きく後退。ルドルを先頭にその後ろに隠れるようにして、全力で防御を張った。うーん、うちの子が優秀。

 召喚者プレイヤーの集団? 気にせず一塊のまま攻撃を続けようとしてるよ? 自分達を歯牙にもかけなかった強者がここまで大技に備える態勢を取ってるんだから、ちょっとは嫌な予感ぐらい感じた方がいいぞ。


「――[ディープシー・ドロップ]!」


 ま、うちの子を、効いていないとは攻撃したんだから、容赦はしないけどな。

 魔法の成立とともに出現した直径1mぐらいの水の球を思いきり上空へと放り上げる。曲線で飛んで行った水球は、ギリギリ結界であるだろう魔力の流れの上を通過していった。

 そしてその水球が、超高密度で圧縮された水の塊が、召喚者プレイヤーの塊の真上に来たところで。


「――[エアハンマー]!」


 そのさらに上空から、風のハンマーを打ち下ろすような、突風を起こす魔法で、水の塊を叩き落とした・・・・・・

 衝撃を加えられ、圧縮された水が解放される。そして厳密にいえば、これは単に「水を出す」だけの魔法だ。大規模な魔法を封じる結界では、その発生を防ぐ事は出来ても、副産物や生成物まで防ぐ事は出来ない。

 結果、何が起こったかって?


「ふむ。……氷漬けとミンチ、どっちがマシなんでしょうね?」


 この気候というか環境だ。風を加えたことで凍った部分に当たれば大きな氷に押しつぶされてミンチに。水のままだった部分に当たれば、そのまま凍って氷漬けだ。

 どっちも散々には違いないが……ミンチの方がマシかな。即時復活できる状態だと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る