第993話 35枚目:進化待機中
ちょっとした騒ぎはあったものの、それでも無事準備は完了。ヘルトルートさんも着ていた和風っぽいスーツな感じの服を着たエルルはとりあえずスクリーンショットで撮影し、北と東の果て、「白い夜」が一番よく見える広場にエルルを送り出した。
ここで私は仮眠という名のログアウトだ。日付変更線を挟んでログインを続けるとちょっとログイン時間がもったいない事になるが、どうせ平日でログイン時間は余るしな。付き合ってくれるカバーさんはもったいないかも知れないけど。
ログアウト中も種族特性は発動する、とはいえ、私も
「さて。……何事も起こらなければ良いんですが」
と呟いて再ログインしたのが、リアル11時だ。ここから3時間フルでログインするのは本当に厳しいので、出来れば何事もなく進化が完了してほしい。
空を見上げても、そこに広がるのは真昼と何も変わらない明るい空だ。体験するのは初めてだが、不思議な感じだな。ゲームだけど。
流石に神殿の入り口付近から奥にある祭場、エルルがいる場所は見えないが、進化には一晩いっぱいかかると聞いている。こっちもやる事といえば警戒しながら待つだけなので、当分は動きがないだろう。
「……」
ないだろう。……と、思っていたんだけどな。
外から聞こえてくるのは、冷人族の人達のものを含む大人数の戦う声と戦闘の音。それらに紛れているが、何かがきしむような音も聞こえる。
空気がピリピリしている感覚からして、たぶん、領域型の何かが展開されているか、されかけているんだろう。それを何とか、神殿に入らないように阻止しているといった感じだろうか。
「来るかもしれないと思っていたら、思いのほか大人数で来たようですね」
確かに私は特級戦力で、エルルもだいぶ有名になっている。だから戦略的にも重要ではあるが、それにしたって襲撃の規模が大きすぎやしないだろうか。もっと言えば、こんなところにリソースを割いている場合か? っていう。
え、もしかしてあれか。進化中はなんか特殊な干渉に対する抵抗力が落ちて諸々通ったらヤバいものが通りやすくなるとか? いや確かに進化中は刺激を与えない方がいい感じだったけども。私の時もヘルトルートさんの時も。
ということは、これは私も出た方がいいかなぁ……と思い、まずはこっそりと入り口の脇まで移動して、様子をうかがう。
「…………?」
そこに見えたのは、随分と大人数が集団となって襲い掛かってきている光景だった。割ときっちりした集団戦闘を仕掛けられているので、うちの子が揃っている上で冷人族の人達も加勢してくれているのに、結構状況は厳しいようだ。
今のうちの子に容赦なんてない筈だが、と思ってよく見ると、瞬殺された誰かの体が光となって消えて、数分もすれば全く同じ装備、同じ顔の誰かが最前線にやってきている。もちろん再び瞬殺されているが、これはもしや、
そう思って目を凝らすのだが、恐らく即時かつデスペナルティ無効の復活を行う祭壇は流石に見えない。なるほど、このピリピリする感じは、その祭壇のものか。まぁ確かに神の力だもんな。
「だとしても、あれは住民の神官の協力が必要だった筈です。冷人族の人達が協力するわけがありませんし、むしろ協力する住民がほぼいない筈ですが。それに、そうだったとしても
しかし現実に、戦争、というほどの規模はないが小競り合いにしては大規模な戦闘は続いている。……そういえば、誰も大規模な範囲魔法を使ってないな? それもまた何か理由があるんだろうか。
「――あぁもうっ! 何ですか、このタイミングのこの場所で「戦闘訓練」などとっ!? マイマスターの判断では絶対にありえないのに、何故付き合わなければならないのか理解できません!」
「そうはいっても実際に襲ってくるから仕方ありませんねー。どうやら大規模な魔法を封じる類の結界も張られているようですしー、面倒なのは全力で同意しますけどー」
「非常識に厚顔無恥を上塗りしたような神経をしていますね! 召喚者として日が浅い者はこんな最低という言葉にすら失礼な程度の者ばかりなのでしょうかっ!?」
「召喚者としての活動の長さは関係ないんじゃないでしょうかー。……あぁでも、召喚者として長く活動しようと思ったらその内淘汰されているでしょうからー、間違ってないかもしれませんねー」
と、思っていると、ルイルとルチルのそんな会話が聞こえてきた。うん? もしかして私が起きて様子をうかがっていることに気づいたかな?
しっかし、戦闘訓練、ねぇ。
確かに。私は、そんな事、一言も聞いてないんだよな。
……っていうか、大規模な魔法を封じてる時点で黒だろ。
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