第989話 35枚目:敵のカード

 で。都合よくスタンピートが起きた、次の日。

 やらかしやがった。


「2つも先の大陸に出てくる超広域デバフ発生能力付きの超巨大モンスターを2種類とも人間種族の生活圏ど真ん中に召喚してんじゃねぇですよあんっっっのゲテモノピエロぉおおおおおおっっ!!」


 エルルがいる時で良かった。ほんっっっと良かった!! 隊長権限で待機してた部隊の人は全員速攻で呼び出せたからな! いくら何でも手が足りない、戦力というより周辺被害をどうにかする方向の!!

 おかげで周辺地域がごそっと丸ごと大惨事だよ! よりにもよって『スターティア』の南と北でそれぞれ防壁の建設を進めて出てきたあのサイズを召喚するとかあの野郎! 男かどうかは知らんけど!

 なお今私は『スターティア』の北の大門の前に立ち、ステータスの暴力で見えて狙いをつけて魔法を届けられる、人形っぽい見た目の方を全力で拘束している。南側では動物っぽい方を、エルルが部下の人と可能な限り速やかに仕留めてくれている筈だ。


「ほんっっっとに急行が間に合って良かった、本当に良かった……! 魔力操作も可能な限り訓練しておいて良かった……っ!」


 竜族の人達で耐えられない状態異常を、『スターティア』及びその周辺にいる人間種族の住民の人達が耐えられる訳がない。召喚者プレイヤーだってその大半が初心者だ。まさかの瞬間的な大虐殺が成立するところだったとかふざけんな!?

 それが何とかなっているのは、私が【調律領域】と【王権領域】を全力で展開し、その範囲を高さ2mに押さえた上でその分平面に広く、通常は地下に広がる分も合わせて自分の後ろへ扇状に伸びる形で広げ、安全圏を作っているからだ。

 今そちらでは司令部による全力の救助が行われている筈だ。流石に初手の中央広場での展開でも『スターティア』全域を範囲に収める事は出来なかったが、大幅に影響を軽減できる場所があるなら生存率は大きく上がる。


「もちろん周囲の村や町もどれだけ影響が出た事か、召喚者プレイヤーだってまだこの中で動けるのは一握りだというのに……!!」


 自己バフをかけた上での出力なら、動きだけでなく多少は超広域デバフも弱める事が出来る。その間に救助が間に合うことを信じて、今はカバーさんのウィスパーで届く情報をもとに救助の手伝いを、リソースの供給という形でやるしかない。

 召喚者プレイヤーの大半は周辺地域の救助に回っていて、レイドボスを殴るだけの火力は用意できない。確かに異界の理こと「モンスターの『王』」の力がしっかりと根付いた竜都の大陸と比べればその範囲は狭いらしいが、最初の大陸における『スターティア』とその周辺の人口密度を考えると何の気休めにもならないんだよな!

 何かやるだろうなとは思っていた。思っていたがしかし、流石にこれは想定外が過ぎるんだが!?


「流石に今回のこれは、神器も含めて一度限りの奥の手的なものだと思いたいところですが……! あぁもう本当に、自分の切り札の使い方をよく知っているようで!」


 今回の事で、どんな要素が絡んでいようとも、どんな条件が付いていようとも、『バッドエンド』が使える暴力というものの最大値が更新された形となる。そしてその条件は不明なままだ。

 つまり、自分たちが脅威である、という印象を、これ以上なく明確に、隠しようも誤魔化しようもない形で示した、ということだ。それはつまり、「そんな組織とは敵対したくない」という恐怖が、相手の手札に転がり込んだ、という事でもある。

 恐怖とは、非常に厄介で、便利な感情だ。あの人心掌握の手腕だけは、それこそ神がかっているゲテモノピエロからすれば、実質のジョーカーかワイルドカードだろう。


「恐怖を拭うのは生半可なことではなく、せめて同等の恐怖を持たなければ比較対象にすらなれない。恐怖政治をしたいわけでも、暴力に訴えていう事を聞かせる方法を取りたいわけでも、一切、ない、というのに……!」


 話すら聞いてもらえなくなる可能性がある以上、せめて対等とみられる程度の暴力は必要だ。

 ははは。本当に、頑張ってステータスを上げないとなぁ?

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