第964話 33枚目:攻略開始

 まぁ分かっていた事だが、そこまでの速度で撃ち出せるのは私ぐらいだった。もちろんエルル達、古代竜族の人達なら同じかそれ以上の速度で撃ち出せるだろうが、戦力的な意味で下がって貰うとちょっときつい。

 と言う訳で司令部は作戦を変更。突入ではなく徹底的な外部からの攻撃を主軸として、「第一候補」も合流しての神の力による一極集中突破を狙う事にしたようだ。


「まぁ、あの円の形が途切れれば何か起こりそうですからね」


 なお、その中心には2重の領域スキルを展開した私が居る。邪神への祈りが込められたイベントアイテムは出所を探したものの確定できず、対処療法的に私の種族特性を含めた範囲にしばらく置いておいて排除する事になったからだ。

 最初にイベントアイテムが壊れた時の時間は測っているので、念の為その倍の時間を効果範囲に置いておき、そこから周囲へと配られている。いやー、種族特性が大活躍だな。多分ボックス様とティフォン様達からあれこれ貰った時、周囲への影響が強化されたからだろうけど。

 と言う訳で、しっかり補充の態勢を整え、相変わらずやってくるモンスターの群れはエルル達にお願いし、位置を調節してもらったピッチングマシンが構えられた。


『それでは――作戦を開始します!』


 司令部からの拡声された指示を皮切りに、一斉にピッチングマシン(ではないのだが、それが一番近いので)が稼働する。そして、今までの比ではない量のイベントアイテムが、肉の壁型砦へと叩き込まれた。

 流石にこれだけの勢いでイベントアイテムを使えば影響は出るらしく、大きな肉の塊が凹んでいくのが見えた。もちろんすぐに再生しようとはしているんだろうが、補充を切らしていない以上、削る方が圧倒的に早い。

 儀式場になってる可能性が高いって事で、空爆の為に上空からその範囲に入るのも危険って判断だったからな。……だからと言って、何故ピッチングマシン。とは思うけど。


「で、大分削れて来ましたが……あれが例の柱的なものっぽいですね」


 そうこうしている間に、膨らんだ風船がしぼむような感じで、一番外側の皮一枚……に見える部分を残し、しおしおと巨大な砦の一部が凹んでいった。そしてその中に、元々の高さと同じくらいの、棒状のものが浮かび上がってくる。

 肉の壁型砦、その表面が被さっているので、その色や細かい形は分からない。分からないが、他に該当するものはないだろう。遠くから見るとかなり細いが、それぐらいでなければ探索中に「柱」には見えないだろうし。

 どうやら柱的なものは本当に柱としての役割があったらしく、皮一枚っぽいものが引っ掛かって、ピンと張っていないテントのような状態になっていった。まぁ、こっちの手を緩めたら、すぐ元に戻るんだろうけど。


『目標が確認されました。それでは大神官様及び『巡礼者の集い』の皆様、よろしくお願い致します』


 で、ここからどうするかと言えば、目には目を歯には歯を、神の力には神の力をって事で、「第一候補」の出番だ。あの邪神に対応する神の力をぶつけて、柱的なものを壊すらしい。……あの皮一枚っぽいものが残っているんだが、それはどうするんだろうか。

 と思っていると、召喚者プレイヤーの一部がモンスターの群れを割って接近。その内の1人が、ガッ! と強い光を放ちながら剣を振りかぶり、柱的なものに引っ掛かっていた皮一枚っぽいものを切り裂いた。ずるり、と剥がれたその下から、白黒縞々の捩じくれた棒のようなものが姿を現す。

 ……多分、あれも神の力か、加護か祝福的な力を乗せた一撃だったんだろう。どの神かは分からないけど。


「まぁ、切り札的な一撃は持っているでしょうから、それを使ったんですかね」


 色々を考えると、“破滅の神々”に対応する神話の加護や祝福を貰ってる召喚者プレイヤーはいるだろうからね。流石に儀式場になってると言ったって、対応する神の力までを取り込むことは出来ないだろう。

 そして露出した柱的なものが、周囲から伸びあがって来る肉……というかモンスターの群れだな。に、覆われる前に、私の後ろから、光る物が飛んで行って、直撃した。

 直撃までは一瞬だったが、三又の槍っぽかったので、「第一候補」の儀式で顕現した神の力の一部だろう。と思う間もなく、周囲を塗り潰す閃光が広がる。


「おわっ!?」


 思わずハンドルから手を放し、顔を覆う。ちょ、これは聞いてないぞ「第一候補」!

 どうやら周囲の召喚者プレイヤーも同じだったようで、「目がぁああ!」という叫びや、物をひっくり返すような音が聞こえる。うん、予想は出来たと言えば出来ただろうが、せめて一言欲しかったかな!

 その閃光はたっぷり十数秒ほども続き、また唐突にかき消えた。何かあっては困るので、すぐに顔を上げる。

 と。


「……まぁ、成果はあったようで何よりです」


 巨大な肉の壁型砦の一部、恐らく、あの柱的なものが支えていたブロック、になるのだろう。それが、綺麗さっぱり消えていた。

 だけでなく、その左右に当たる部分がぐずぐずと崩れては何とか再生しようとする、という感じになっているので、大分効いているようだ。……まぁ、対応する神話の神の力を直接叩き込んでるからな。

 まぁでも。


「予想はしてましたが、やっぱりこれで終わらないんですね」


 問題は、その向こうにも、同じような肉の壁型砦が見えるって事だな。

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