第963話 33枚目:対策設備

 しかし、手で投げるとやっぱり投げれる数に限りがあるんだよな。こう、紐かなんかでくくるか、いっそ袋に入れて纏めて投げられないかな。でも直接投げつけないと効果が出ない仕様になってるしな。

 いっそ現実にある漬物瓶サイズの瓶でイベント専用のポーションを作って貰おうか、とか思いながらイベントアイテムを投げ続けていると、そこへひょっこりとみのみのさん率いる『牛肉工務店』の人達がやって来た。うん?


「ブモー! イベント対策設備の設置に来たッス!」

「……なるほど先程連絡が来た。みのみのさん、よろしくお願いします」


 その言葉に、そう言えばそんな情報がクランメンバー専用掲示板に書き込まれていたな、と言う事を思い出した。

 何の事かと言うと、さっき私が思った事だ。手で投げると、いくらステータスを上げても投げられる数に限りがある。恐らくあのゲテモノピエロのせいで難易度が上がっている現状、それでは間に合わないかも知れない、と司令部は判断した訳だ。

 ではどうすればいいかと言えば、それはまぁ当然、道具を使えばいい。と言う事で、突貫作業ながら大急ぎで、色々な形があるイベントアイテムを、人間が投げるよりも早く、大量に投げつける為の道具……というか、設備が開発された訳だ。


「しかし、手動とは言えピッチングマシンが再現されるとは……」

「ぴっ……お嬢、何て?」

「えーとですね。そもそも野球と言う遊びがありまして」


 なぜそうなったかは知らないからな。私は開発に成功したから設置しに行きますって書き込みを見ただけだ。正直、どうしてそうなった、とは思う。と言うか、ほんとよく開発したな?

 遠慮なくファンタジーあるあるの不思議素材や不思議技術、魔法アビリティによる諸々の法則を無視する付与何かを施されたそれは、セットされたものが一定の大きさと重さに収まるなら、材質や温度を無視して撃ち出す事が出来るらしい。

 もちろん撃ち出す角度は設置する時点で固定になるし、撃ち出す速度は手回しハンドルを回す速度に依存し、しかも結構重いとの事。しかも撃ち出したいものは、結構ごつくてでかい設備の上にある籠に入れておかなければならない。


「へー、そんな遊びが。魔法に関するルールがなかったが、何を使っても良いのか?」

「魔法もスキルも存在しない世界での遊びですから、基本的に全面使用禁止です」

「……なるほど。魔法無しか」


 何かエルルが食いついてきたのでざっくり野球について説明し、その練習に使う道具に似ていると説明する。そうこうしている間に、みのみのさん達は設置を終えたようだ。本当に仕事が早い。

 少し距離を開けて次の設置にかかるみのみのさん達にお礼を言い、空の状態で軽くハンドルを回してみる。実際に物を飛ばす時はもっと重くなるだろうが、問題なく回せるな。

 籠を支える柱もしっかりしているのを確認し、インベントリに入っていたイベントアイテムをざらざらと投入する。……結構大きな籠にこんもりと山になったが、さてどれくらいで撃ち出せるのか。


「さてそれでは、試運転と行きましょう」


 なお本格的に運用する場合は、籠にイベントアイテムを補充する係の人が必要となる。撃ち出す速度はハンドルを回す人によって大きく変わるから、一回速度を見ておかないと補充に必要な人数が分からないんだよね。


「……。ちなみにお嬢。その補充するって言うのは」

「流石に召喚者プレイヤーの方にお任せしますよ。エルル達は迎撃で忙しいでしょう?」


 どうやらエルルは嫌な予感がしたようだが、大丈夫だ。流石にそこまではさせないから。木箱を運んでくれている人たちが担当してくれる予定である。戦力的な事を考えたら、エルル達は下げないというか、下げている余裕はない。休憩したいんなら別だけど。

 メニューの時計表示を出してタイマー代わりにして、もう一度周囲と射線上に誰もいないことを確認。それじゃ、発射開始!


「……これは結構人数が要りそうですね」

「そうだな。効果が高いのは分かるが」


 で。

 結構緩くハンドルを回したつもりなのに、1分もかからず全部撃ち切ってしまったので、補充担当の人はとても大変な仕事になる事が確定した。

 代わりに、あれだけやっても変化の無かった肉の壁型砦に凹みが出来ていたので、火力と言う意味では十分な成果が出たのだが。

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